子供は残酷
休日に近所の公園で本を読んでいると、遊んでいた小学校低学年くらいの女の子グループが喧嘩を始めた。縄跳びをするか鬼ごっこをするかで揉めているらしい。ゲーム中毒になるでもなく外で遊ぶなんて偉いなあ、と思いながら読書を続けているとエスカレートして一人が他の子を突き飛ばした。
「いたい!何するの!友だちのことおしちゃいけないんだよ!!」
「だってこの前もおにごっこだったじゃん!それにおにはみんなショウのことばっかり追いかけてくるしイヤ!ミエちゃん、今日はなわとびでいいよっていってたのにうそつき」
「うるさい!いつも同じふくで友だちいないショウちゃんがかわいそうだからあそんであげてるのに!人にぼうりょくふるう方がわるいって山本先生もいってたもん、おまわりさんにつかまって首にくるしいことされるこーしゅけいってのになるんだよ!」
「…いたいことしちゃったのはごめんなさい。だけど今日はショウの好きなあそびしていいっていうからこの前デザートのゼリーあげたのに」
「くちやくそくってのはむこーだって山本先生もいってたよ!ミエはわるくないもん!おまわりさんのかわりにこーしゅけいにしてあげる!」
何て物騒な会話だと思って顔を上げると、リーダー格っぽいミエちゃんの指示で取り巻きの子達がショウちゃんを縄跳びでグルグルに拘束した上、首にも縄跳びを巻き付け絞めあげようとしているところだった。止めても無駄なので静観していると、ギューッと首縄が引っ張られ泣き叫ぶショウちゃんの顔が苦痛に歪む。ミエちゃんはニヤニヤと見ている。実行犯の子もあの歳で嗜虐心が疼く逸材なのか、楽しげに絞めている。流石にまずいんじゃないか、と言いたげにオロオロしている子もいるが口答えはできないようだ。山本先生は口約束の前に人を殺したらえらいことになると教えるべきなのに。涎を垂らしながら顔が青紫に変色していくショウちゃんと目が合った気がした。僕の他に園内に人はいない。意味がないのは承知で、ベンチから立ち上がり処刑執行中の砂場へ向かった。
「こんにちは、死んじゃうから止めな」
子供達の腕を掴み、縄跳びを取り上げる。首と身体が解放されたショウちゃんはガハッと咳き込み、荒い呼吸を繰り返した。
「だれですか!?あ、ふしんしゃでしょ!ぼうはんブザーひっぱって先生とおまわりさんよびますよ!!」
公園の隅で空気と化していた高校生の乱入に、取り巻きの子達はかなり怯んだがミエちゃんは物怖じしない。それでも敬語を使えるあたりしっかりした子ではあるんだろう、この先の人生が勿体ない。
「不審者じゃな…いやどうだろ。見知らぬ女児の腕を掴むのは不審者の定義に当てはまるのかもしれない。それは置いといて、お友達の首を絞めちゃ駄目だよ。この子が死んじゃったら君達も全員お巡りさんに捕まっちゃう」
「なんでミエたちがつかまるの!?わるいのはショウちゃんだからこーしゅけいにしてるだけなのに!」
「ええとね、ちょっと暴力を振るっただけで死刑はあり得ないし、そもそも民間人にその権限はなくて…ってここで説明する意味はないな。あっちでこれからお巡りさんにたくさん教えてもらえると思う」
「…あっち?」
「うん、そろそろ戻るみたい。ごめんね、ショウちゃん」
ようやく呼吸が落ち着いてきたショウちゃんが、涙を滲ませながら不思議そうな顔で僕を見る。助けてくれたのに何で謝られているのかが分からない、といったところだろうか。
「役立たずでごめんね。この世界で何をしても、現実には何の影響も及ぼせない。だから、本当の君は多分今頃…。僕は寝起きが凄く悪くて、自然起床以外だと物理的に叩き起こされるか、脳に刷り込まれているアラーム音と授業のチャイムでしかまず目覚めないんだ。少し離れた砂場で君が泣いていても助けには行けなかった、ごめん」
身体が引っ張られるような感覚を覚え、段々と視界がぼやけていく。
***
近所の公園にパトカーが来て大騒ぎになっているらしいのでウキウキしながら現場を見に行くと、クラスメイトで中学校からの付き合いの朝来がいた。立ち入り禁止テープが貼られた公園の中で、警察に事情を聴かれている。ただでさえ眠ってばかりで友達が少ないのにこんなところを知り合いに見られたら余計に孤立しそうだわ、と思いながら聴取が終わるのを待つ。公園から出てきた朝来に好機の目を浴びせる周りの野次馬を無視し、真っ先に駆け寄り話しかけた。
「何をやらかしたのかしら?」
「…
「まだ何があったかさっぱりよ。警察騒ぎで面白そうだから来ただけ。あっさり解放されたということは、つまらないけれど貴方は重要参考人ではないのかしら」
「うん、さっきこの公園で小学生の児童が同級生を殺した」
「あら痛ましい。貴方は現場に居合わせたの?」
「ベンチに座ったまま寝ていた。動かなくなった被害者に動揺した加害者の子達が僕を揺さぶり起こして助けを求めた。救急車を呼んだけど手遅れだった」
「…殺害方法と動機は聞いたの?」
「救急車が来るまで泣きじゃくるだけだったんで聞いてはいない、けど見てはいた。グループ内格差による喧嘩…いやイジメの延長で、縄跳びで首を絞めていた。殺意はあったのかもしれないけど、幼い故に殺人がどういうことか分からなかったんだと思う。僕にはそう見えた」
「ふーん、胸糞悪いわ。その人殺しの子達が正直に自供してくれればいいけれど、子供は大人が思うよりもずっと賢くて残酷だから自分達が有利になるために口裏を合わせてもおかしくないわね。でも貴方の見ていたこと警察には言えないでしょうね。何故止めなかったのかと責められて面倒なことになってしまう」
「うん、警察には寝ていて何も目撃していないと伝えた。『人が殺されてる横で呑気に昼寝か、被害者の子は助けを求めてお前を見つめていたかもしれないのに、加害者の子達だってお前が止めればまた違う未来があったのに、この役立たず』とでも言いたげな視線をもらった」
朝来の事情的に仕方ないけれど、かなり被害妄想豊かよね。もっと事件について根掘り葉掘り聞きたかったけれど友達思いの私は遠慮する。夢で現実とほぼ同じ世界に行ける能力なんて羨ましくて仕方ないけれど、朝来にとっては精神的にキツいことも多いようで定期的に目に見えて鬱っぽくなる。
せっかくだしお茶でも行きましょ、と辛気臭いオーラを漂わせる細い背中を押して公園を後にした。
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