7 あなたの色に

……どうして。

どうして、自ら命を断つなんてことを選んでしまうのだろう。少しずつだけど、彼女は笑顔を見せてくれた。私は、彼女を無理に変えようとは思わなかった。

ただ、温度のある手だけは、離さないと決めた。逃げないように、ではない。

ここにいると、伝えるために。『……そうだね。行こう、夜景を見に。』

今は、手を離せなかった。

そのまま、夜の街を走った。涙を流している時間なんてない。家に着くと、何も言わずに車の鍵を掴んだ。

エンジン音が、夜の静けさを裂いた。

結衣は涙を浮かべたまま、助手席に座る。


****


街を走った。ふと横を見るが、彼女は何も言わなかった。ただ、街の光をひとつずつ、数えるように見つめていた。顔は見えない。しばらく街を走り、高速道路に入った。夕日に照らされた横顔が、窓ガラスに淡く映っていた。

空を見ているだけなのに、どこか遠くへ行ってしまいそうで、

私は無意識に、ハンドルを握る指に力を込めた。彼女が前を向いた。それを確かめてから、私も視線を戻した。珍しく、高速道路には車が少なかった。私ははっとして標識を見た。

結衣に見惚れている間に、車線が一つずれていたらしい。けれど、後ろを見ても、車の姿はなかった。しばらくすると、山の麓に着いた。人影のない駐車場に車を停めた。『ここからは歩いて登ろうか。夕日はもう目の高さにあった。結衣は私の手を握った。私は歩く速さを、彼女に合わせた。どれだけ過去を背負っていても、どこかに居場所はある。結衣の手は、小さくて、少し冷たかった。離れたら、すぐにどこかへ行ってしまいそうで。死が見えることを、これほどまでに呪いたいと思ったのは初めてだ。決めた。今、この瞬間だけは、私はここにいる。『じゃあ、行こうか。』彼女は微笑みながら頷いた。私たちは【ぼくらの広場】の看板を頼りに、しばらく歩いた。もう日は沈んでいた。目でわかるほど、ゆっくりと暗くなっていく。夜が来たんだ、と人生で初めて感じた。道がひらけてきたと感じた時だった。彼女は私の手を離し、走り出した。まるで乾いた心に光を探すように、結衣は走り出した。結衣は必死に走り、やがて姿が見えなくなった。はっとして私も走り出した。木に手をつき、【僕らの広場】の看板を過ぎた時だった。そこには光の海があった。

無数の光が、暗闇の中で星座のように散らばっていた。街の人々の営みは、無数の天の川のように流れている。冷たい風が頬を撫で、髪が靡いた。どこか懐かしさを感じる。結衣もただ見惚れていた。その横顔に、夜景の光が柔らかく映り込み、髪飾りが揺れる。

言葉を失った。

ーーただ、この夜は、結衣のためにあるのだと思った。太陽も月も見えない。いつもと同じ夜景なのに、私の目に映る色だけが、少し違って見えた。結衣の頬は濡れていた。結衣は街を見つめたまま、涙を拭かずに「誰かと夜景を見るのは初めて...」とつぶやいた。「お姉さんは...ずっと、いなくならないよね...?」

夜景ではなかった。

私はが見ていたのは夜景ではなかった。

私は、夜を写して揺れる結衣の瞳を見ていた。

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