「アリーさまの扇はこちらに。試作品ができあがりましたよ」

 宰相が合図をすると、使用人さんがお盆に乗せた扇をうやうやしく掲げ持ってきた。


「わ、すごい!」

 いったとおりのクジャクの羽根扇! しかも鮮やかな緑と真っ白いヤツ!

「白! すごい! 激レア!」

 さっそく手にとって広げてみた。

 ひらひらひらと振ってみる。

「すごいきれい! ありがとうございます!」


「アリーは、その扇どうするんだ?」

 王子が聞いた。

「これを振れば、瘴気なんて一撃なんですよ。効率的です」

「さっそくお試しください」

 宰相がそう言って、例の箱を持ちだしてきた。何個あるんだ、それ。


 またもや使用人さんが目いっぱい伸ばした腕で箱を持ち上げた。

 例によってぶよぶよがもわっと瘴気を放つ。

 さすがに勇者や戦士たちは、この程度で声をあげたりしない。


「さあさあ」

 閣下が期待に満ちた目で催促をする。しょうがないなぁ。いっちょ見せたろか。

 ジュリアナのメロディにのって、扇を振る。一瞬。ほんの一瞬よ。瘴気はぱあっと晴れた。

「おお」

 勇者御一行からも感嘆の声が漏れた。うふふ。なんか気分がいいわね。


 調子に乗った。扇と言ったらジュリアナもだけど、神楽よね。

 瘴気の本体も消しましょうかね。

「風刃の舞!」

 ひゅっと扇を瘴気の塊にむかって振り下ろした。

 

 ズバン!!!


 え? なんか出た。なんか出たよ?

 扇の先からなんか出た。それで振り下ろした先のぶよぶよの入ったケージは真っ二つになって、ぶよぶよは「しゅう」と音を立てて霧散した。

 残っていた牛モドキは、気配を察したのかじたばたと暴れた。


 目が点になったご一同。わたしもですが。

 今、なにが起きましたかね。

「あ、はは。アリーさまの扇は攻撃もできるようで……」

 宰相の目が泳いでいる。想定外でしたか。

「で、できましたね」

 あはは、と笑ってごまかす。それしかないじゃんね。


「いやいや、大物は王子さまにお願いしますよ?」

「も、もちろんだ」

 王子は胸をはった。


「あ、あたしもなにか! なにかできる! たぶん!」

 レイラがバタバタする。見せ場がないのは辛いよね。でもあなたの見せ場はここじゃないと思う。


「おまえは戦わなくてもいい」

 おお? 王子が言いましたよ。

「おまえには道案内と、危険を察知するという重要な仕事があるんだ。魔物はぼくたちに任せて、自分の仕事に集中してくれ」

 王子、男前!

 あれあれ? いただき女子もぽわっと赤くなりましたよ? マリア姫は半眼に。

 ……だいじょうぶですかね。波乱の予感が……。


 えーと、コンラートさんのも見たいんですけど。一頭残ってるし。

 と思ったら、彼はつかつかと近寄って、暴れる牛モドキをものともせずに、剣をさっくりと首に刺した。

 ほんとうに、モモに爪楊枝を刺すように、手ごたえのひとつもないように。

 え? そんな何気なく? 自動ドアにタッチしたくらいにしか見えなかったよ。


 

 剣を抜くと、ぴゅーと血が噴き出した。ああ、頸動脈を一突きだったのか。それもすごいな。そしてひとこと。

「派手さはありませんが」

 またまた、ご謙遜を。

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