ある神学者の手記 ――または、ホログラフィック宇宙のバグ修正について

ミカイノ宙

第1話 ホログラフィック・グノーシス――または集合的無意識における管理者権限の奪取に関する覚書

記述:『ホログラフィック・グノーシス――または集合的無意識における管理者権限の奪取に関する覚書』


執筆者: 聖イグナチオ統合神学院 構造神学特任教授

   エリアス・V・カントール

日時: 統一歴124年

対象: 新興宗教「ゼノフォリア」およびその教義学的特異性について


 宇宙移民者スペーシアンの間で爆発的に流行しているウィルス――「ゼノフォリア教」について、世俗の社会学者たちは「貧困と抑圧が生んだ阿片」だと分析している。 だが、それは表面的な事象インターフェースしか見ていない愚者の見解だ。 私がこの教団、とりわけその深奥部に関心を抱くのは、彼らが再定義した「神」の概念が、極めて構造的で、かつ危険なほど「正鵠せいこく」を射ているからだ。


 1. ネットワークの中枢としての「神」

 彼らの教義において、神とは人格神ではない。 この宇宙が「ホログラフィック原理」によって投影された情報の膜であるとするならば、神とはその投影源であり、全人類の集合的無意識の最深部に位置する「中央演算装置セントラル・プロセッサ」であると定義されている。


 非常に美しい定義だ。 我々個々の意識は、その巨大なネットワークに接続された末端ターミナルに過ぎない。 ゼノフォリアが説く「脳の活性化」や「進化」とは、単なる自己啓発ではない。末端の帯域バンド幅を拡張し、サーバーである神との同期率を高めるための「ドライバ更新」なのだ。


 2. 「異質な歓喜」という名のバグ

 教団名にある「ゼノ(異質なもの)」とは何を指すのか? 表向きは宇宙環境への適応や、他者への共感とされている。だが、神学的に解読すれば、それは「人間という規格フォーマットからの逸脱」を意味する。


 開祖と呼ばれる人物は、すでに失踪しているという。 おそらくその人物は、偶然にも「管理者ルート権限」に触れてしまった特異点(バグ)だったのだろう。予知や癒しといった奇跡は、物理法則という基本プログラムに対する、局所的な「書き換えオーバーライド」に過ぎない。 司教オリバー・カスティールは、そのバグを宗教という名の「安定板」にパッケージングし、大衆に配布しているシステム管理者に過ぎない。


 3. 禁忌とされる研究:直接接続プロトコル

 そして、私が最も戦慄している噂について記述せねばならない。 教団の内部派閥の一部が、単なる信仰や瞑想を超え、物理的・神経学的なアプローチによって「神との直接対話」を試みているという。


 これは、信仰ではない。ハッキングだ。 彼らは、集合的無意識の底――事象の地平面の向こう側にある「神の座」へ、強制的にアクセスしようとしている。 もし、ホログラフィック宇宙の「核」に人間が触れればどうなるか? UE-000の牧村芽衣は「環境」を変え、UE-064のAIDAは「機械」を変えた。 だが、ゼノフォリアが目指しているのは、それらを含む「現実リアリティそのもののソースコード」の改変である可能性がある。


 ギルベルト・ハーゼンバインとかいう野心的な政治家が、この宗教を利用しているようだが、彼は自分が何を握っているか理解していない。 彼が手にしているのは、政治的な票田などではない。 世界の存亡をかけた、解読不能な「起爆スイッチ」だ。


 予言的結論

 歴史の文法に従えば、この無謀な試みは必ず「第三の特異点」を招く。 その時、天から降りてくるのは天使の梯子か、それともシステムダウンを告げる虚無の闇か。 いずれにせよ、我々はまもなく、神の本当の「声」を聞くことになるだろう。 それが、人間の鼓膜で耐えられる周波数であれば良いのだが。

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