魔王軍幹部を食い殺した銀色の死神――顔を潰された王子と神獣は、不落の城塞で「復讐の宴」を始める。〜今更、救援(人類)などいらぬ。我らは家族とあくびを護るため、魔族を肉に変える〜
ダメだ里香ちゃん
第一話「殺した後もなお憎い」
レオンハルトには、朧気ながらまだ意識があった。
(この状況……俺だけが生きているのか? ……甘かった……部屋にこれほど強力なトラップが仕掛けられているとは……勝機があるとすれば奴を屋外へ……)
痺れきった体で泥沼のような意識を這いずり、彼は顔面に感じる生暖かい感触の正体を悟った。
(……グンの舌……?)
「……王子……起きろ……」
聞き慣れたカミロの声が降ってきた。
レオンハルトはカッと目を見開くと、真上から覗き込む見慣れた三人の顔――カミロ、そしてグンとブリューの姿を捉えた。次の瞬間、彼はすばやく跳ね上がり、反射的にファイティングポーズを構えた。
しかし、そこに居るはずの敵、魔王軍幹部の姿はどこにもなかった。
レオンハルトが問うよりも先に、カミロが短く答えた。
「幹部はブリューと俺でのした。外に死体が転がってる」
カミロが親指で差した先、崩落した壁の際に立って見下ろすと、眼下の地面にあり得ない方向に四肢を曲げた死体の影が見えた。目を凝らせば、確かに見覚えのある漆黒の鎧兜の巨躯だ。
(寝ているうちに終わってしまった……)
「……良くやった」
レオンハルトは呆然としたまま、自らの預かり知らぬところで武功を上げた二人を称えた。
「で、王子。作戦通り、これからここで籠城するんだよな?」
「もちろんだ」
「じゃあまずは腹ごしらえだ、行こうぜ! ブリュー」
カミロがブリューの背中に跳び乗ると、待ってましたとばかりにブリューがその巨躯を立ち上がらせる。グンもまた、主を乗せるために慣れた動作で体勢を低くしたが、それをレオンハルトの手が制した。
「ちょっと待て。……俺たちはなぜ生きている?」
当然の疑問だった。あの部屋で、彼らは為す術もなく幹部が放った広範囲の雷攻撃に晒されたはずだ。
「そりゃルカの緩衝材が効いたのさ。俺も終わってから気づいたが、体が焼けてねぇ。雷に打たれりゃ普通は黒焦げになるはずだろう? それで気づいたんだ。こりゃあ気絶してただけだってな」
「なるほど。では、グンとブリューは?」
「一度は体を焼かれたはずだ。でなきゃ野郎が雷攻撃をやめるはずがねぇ。これはあくまで推測だが、グンとブリューは驚異的な自然治癒を持って生まれている。俺たちは赤子の頃から徹底して戦術を叩き込んできたから、こいつらは大した怪我を経験したことがねぇってだけでな」
「……神の子だもんな」
レオンハルトは目を細めた。グンの額と鼻先に残る四つの傷跡、蛇のように大口を開いた悪魔に噛み付かれた場所を、愛おしそうに、そして慈しむように摩る。
「しかし、あの野郎……。一度でも二人を黒焦げにしたのかと思うと、許せねぇ」
カミロの低い声に、王子が肩をすくめた。
「許すもなにも……もう殺したんだろ?」
「そうだが、怒りが治まらねぇんだよっ!」
激昂に近いその言葉に、王子はしばし沈黙したが、やがて深く頷いた。
「……気持ちは分かる。大切な我が子を傷つけられた恨み、一生忘れられぬ……。私も、腸が熱くなってきたぁっ……!」
二人の男の間に、死んだ幹部への純粋な、そして苛烈な憎悪が渦巻く。しかし、対象は既に物言わぬ肉塊だ。
「でもまぁ、殺した奴をこれ以上痛めつける方法はねぇもんな。飯食って忘れようぜ!」
カミロの合図でブリューが城壁を真っ逆さまに駆け出すと、レオンハルトを乗せたグンもそれに続いた。
「でもよー王子ー! 森の獣は魔族に食い荒らされてそうだぜー!」
垂直の壁を風を切って下りながら、カミロが叫ぶ。レオンハルトは矛を強く握り直し、見張り台の下で陣を張る魔族の群れをその鋭い眼光で射抜いた。
「だったら、食えそうな魔族を食う!」
「あいよ!」
森へ向かっていたブリューが、空中で意思を伝えるかのように直角に方向転換して着地する。
銀色の二条の光は、一方的な狩りを開始すべく、魔族の兵士たちへと牙を剥いて突っ込んでいった。
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