セーブとロードと勇者と私

折亜子

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『また会えましたね、勇者カオス。よくぞここまで辿り着きました。さぞ、大変だったでしょう。▶︎』


 鈴の音のような、軽やかな声。目の前にいるのは、全知全能の女神・セレスティーネ。瞳を閉じて、微笑んでいる。


『貴方達が来るのを、ずっと待っていました。疲れたでしょう……。今、回復して差し上げますね。▶︎』


 私はその光景を、ぼーっと眺めてた。

 展開される上位の治癒魔法オール・ハイヒーリング。淡い光が私達を包んだ。体中の傷が癒えていく。体力や魔力も、なにもかも全快。


 でも、私の心の傷までは癒せない。


『――さぁ勇者とその仲間達。お行きなさい。魔王を、どうか倒し』

「倒した後はどうなるんです?」

『……へ?▶︎』


 話を遮って、疑問をぶつけたのは私だ。女神・セレスティーネは驚いた。私が話しかけてくるなんて、思ってもみなかったみたい。

 本来ならば、のだから。


「だから、魔王がいなくなった後、私達はどうなんのよ」

『えっ……と、え? 好きなように生きて……え? ていうか貴女、なんで私に……話しかけら、れて?』

「好きなように、ですって?」


 目の前に浮いている、邪魔なをぶん殴る。傷一つ付かないけれど、精一杯の反抗だ。

 そんな私を勇者は見ているだけで、何も言う様子はない。むしろ楽しんでいそうだ。口が笑ってる。いつまでむかつく奴め。


 冗談じゃないわ。勇者のセンバイトッキョなんでしょ。セーブでもロードでもすればいい。私がキツく睨んだ先の勇者は、決して動じない。


「今すぐ好きなように生きさせてよー!」


 私はここに、生きているんだから。


 あの時選ばれなければ、面倒に巻き込まれず悠々と暮らしていたのにな。私の声はこだまして、消えていく。





「マイアー! 早く起きなさーい」

「……はぁい」


 ゴシゴシと目を擦り、無理矢理体を起き上がらせた。ふんわりと、とっても良い匂いがする。キッチンへ行くと朝食が並んでいて、くうぅ、と自然とお腹が鳴ってしまう。


 半熟目玉焼きとハムを乗せたバタートースト。カラフルな豆と採れたてトマトのフレッシュサラダ。そして、デザートにはフルーツたっぷりヨーグルト!


 二度寝したくても、できないほどに美味しそう。大好きなお母さんのご飯。


「いっただきまーす」

「今日、いよいよね」

「……うん」


 サクッと音を立てて、トーストをかじる。美味しいはずなのに、味が霞んだ。今日、なにがあるのかって?

 それは……。


 ――勇者の来訪である!


 私の生まれ故郷である小さな村、プロト。ここに、勇者がやってくる。仲間を求めて。

 私はその仲間候補。

 なんでプロト村なの? 大きな街にはギルドもあるし、それこそ王都に行けば強い奴なんてゴロゴロいるでしょ。


 とにかく『予言の書』通りに、勇者はプロト村にやってくる。絶対なんだってさ。100年だか1000年だかぶりの魔王復活により、世界は破滅の危機に侵されてるとかなんとか。

 村中が歓迎ムードの中、私は意気消沈ってやつだ。お母さんも心配こそしているけれど、内心期待しているのだろう。

 私が、選ばれる事に。


 考えているうちに、朝食を食べ終えてしまった。美味しすぎる。毎日、いや。永遠に食べたい。

 そうも言っていられないので、一張羅いっちょうらに袖を通して、身なりを整える。服以外はいつもの私だ。私にとっては別に特別な日でも、なんでもない。


「じゃあ行こっか。お母さん」

「勇者様、優しいといいね」


 緊張と共に、家を出る。私が選ばれないようにと願うのは、他にも仲間候補がいるから。家のすぐ目の前にある広場で、4人はもう待っていた。


 屈強な肉体を持った用心棒アンドレさん。

 優しい心を持った熟練弓使いジュピター。

 大人の魅力抜群の天才占い師カサンドラさん。

 引退したけど腕は劣らない元賢者のバーグさん。


 そして、ちょっと魔法が得意な私、マイア。

 ……場違いすぎない?


 勇者はこの中から1人しか、仲間を選べないんだって。なにそれ。私以外全員連れて行って、さっさと倒せばいいのに。

 どうせ、勇者サマも強いんでしょ。

 ちなみに用心棒のアンドレさんは、この日の為にわざわざ引っ越してきた。やるわね、アンドレ。私が選ばれる可能性を下げてくれて、どうもありがとう。



 ところで……いつになったら来るの?

 立ち続けて足が痛くなってきた頃、奴は来た。



 ……奴とか言ったら流石に失礼かな。でも本当に来るんだ、勇者。で、そこにいるのはきっと多分……勇者だった。

 首から上はね。


「服のセンスどうなってんのよ!」


 心の声がつい、口から出てしまった。遠くからお母さんが青ざめながら腕を振り回している。慌てて口を両手で塞いだ。ごめん、お母さん。


 ざわつく周りをよそに、改めて勇者を見る。

 顔は……まぁカッコいいといえば、カッコいいのか。金髪碧眼。歳は私と同じくらいかな。因みに私は15歳。

 問題はその服装だ。

 てっきり凄そうな厳つい甲冑でも着てくるのだと思ってたけれど、全然違った。それこそ、プロト村に溶け込めそうな、シンプル過ぎる服。腰にもシンプルな剣。

 ただし、色合いに統一感が無くて、絶妙にダサい。

 一緒に歩きたくない。


「…………」


 勇者は私達5人をじっくり見定めている。選ばれるのは1人。どうか私を選ばないで。魔法はちょっぴりしか覚えてないし、魔物と戦うの怖すぎるので!

 お願い勇者様神様女神様!



ピコンッ



「……ん? なんの音?」


 思わず塞いだ両手から、声が溢れる。その音は、頭の上からした。見上げた私はもう、めちゃくちゃに驚いた。

 だって、文字が浮かんでるのよ! 文字を囲うように、半透明の四角い何かが、私の頭の上に浮いてる。私はその時、それがなんなのか分からなかった。


 でも1つ確かな事は、その半透明の四角いやつが消えた時。勇者が私に歩み寄ってきた――つまり、私が選ばれてしまった。


「全員分周って試リセマラしてみたけど、やっぱり君が一番いいかもな」

「は?」


 これが私の人生で最大最悪で、世界の見え方が変わった日の始まりだ。

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