第24話 夢を語る女
ある日のことだ。杏子がメニューをこなしているとひとりの若い女性が近づいてきた。若いというより幼い感じさえする。
「あの。御子柴さんですよね」
女はおずおずと声を掛けた。
「あなたは・・・、ああ、あの時の・・・」
その女性は杏子のボクササイズで、救急車で運ばれた彼女だった。
「その節は、ご心配をお掛けして、すいませんでした」
女はペコリと頭を下げた。
「そんなことは全然いいんだけど。足はもう大丈夫なの?」
「はい。1ヶ月ちょっとかかりましたけど、今はもう大丈夫です。またボクササイズ出られます」
「いやいや、無理しない方がいいって」
「でも私、別にボクササイズで骨折したわけじゃなくて。それまでにやっていたレッグプレスとかのトレーニングが原因だったんですよ」
「やっぱり疲労骨折だったのね。でも、ボクササイズはもうレッスンもないしね」
「え、御子柴さん、ボクササイズやらないんですか?」
「私、今は客として来てるのよ。インストラクターは辞めたの」
すると女は悲しげな顔をした。それで杏子は慌てて話を繕う。
「そうじゃなくて。今はね、ボクシングやろうと思ってて・・・」
「本当のボクシングですか?」
女はそう言って、両手の拳を握ってファイティングポーズをして見せた。
「そう、それ」
「じゃあ、以前はボクサーだったとか?」
「高校時代にね。インターハイにも出たんだけど。何か不完全燃焼でさ。今更なんだけど」
話し易い相手だった。杏子は少し不思議な気がした。なんで、何の関係も無い人にこんなことを自分は喋っているんだろう。そんな気がした。
「それ、素敵な夢ですね」
女のそんな言葉も素直に受け取れた。
「私は昔母に観に連れて行ってもらったミュージカルが忘れられなくて。自分で出たいって思って・・・。でも、実際演劇の世界に入ってみると、お芝居って、それこそ千差万別というか、色々な考え方があって・・・。困ったので、最初の切っ掛けだったミュージカル劇団の研究生になったんです」
女は遠藤霞だった。まだ20才である。
「そしたら、チャンスが巡ってきて、逃すものかと頑張り過ぎて。反対に全部なくしちゃいました」
「なくしたって・・・?」
「私が怪我してる間に他の人に役は決まっていて。それどころか劇団も追い出されちゃいました。1ヶ月も休んでれば仕方ないですよね」
「まあ、可哀想に・・・」
杏子はすっかり霞に同情していた。
「いいえ。もういいんです」
「諦めちゃった?」
「そう言うわけじゃなくて。怪我で休んでいる間に考えたんです。自分は何をやりたいんだ?って」
杏子は自分が悩んでいたことを思い出して、少し苦しくなった。
「もしかしたら単純に演劇が好きなだけなら、公演を見に行けばいいわけじゃないですか」
「それはそうだけど・・・」
「いや。ミュージカルをやりたい? お芝居をやりたい? 出る側になれればそれでいい? どれなんだろうって・・・」
「結論は出たの?」
「はい。私は表現したいんだって気が付いたんです」
「表現したい?」
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