謎のゲーム機から出てきた英雄が、俺の部屋に住み始めた。

へろあ・ろるふ

STAGE:チュートリアル


『~~……♪』


 全てが終わった。物語はこれで終わったのだ。


「はー……。なかなか面白かったな」


 達成感と疲労に肩を叩かれながら、ベッドに倒れ込む。




 俺は大学生、羅生門トウヤ。

 趣味はレトロなゲームだ。


 ドット画面や古めかしい電子音に、ターン制のRPG。そういう「なんかソレっぽい雰囲気のゲーム」に、ドハマりしていた。


 そして3ヶ月前の引っ越しの時、押し入れから見慣れないゲーム機を発掘。

 荷解きを終えて生活が落ち着いた後、俺はそのゲーム機を興味津々で起動した。

 その胸の高鳴りを、今でも鮮明に覚えている。



 ――——面白さと奥深さのあまり、俺は毎日のように徹夜した。目の下にクマができたのは、このゲームに出会ってからだ。


 楽しい時間は泡のように溶けていき、気付いた時には、英雄たちの冒険は終わっていた。


「……楽しかった~。こいつらの愉快なやり取りも、もう聞けなくなるのか。なんか寂しいや」


『♦♢オールクリア報酬!!♢♦』


 日々の徹夜による眠気が、脱力した全身を柔らかく包んでいく。

 俺は窓の向こうの月を見ながら、瞼が落ちるのを待った。




♦♢翌日♢♦



 曖昧な意識が徐々に鮮明になり、白い光が俺の瞼を持ち上げる。


 目を覚ますと、俺の背後にがいるのを感じた。温かく、柔らかく、生命の脈動を感じさせる何かが。


 俺は唾を飲み込み、慎重に身体を起こす。そして、隣で眠っているをゆっくりと視界に入れた。


「ッ……!?」


 それは、全く見覚えのない少女だった。

 子ウサギのように丸く縮こまった、茶髪の女の子だ。


 縫い目の粗いベージュの寝間着を着ているが、それだけでは少し寒そうに見える。


 肩が微かに震えていたので、彼女に毛布をかけた。

 それから、状況を整理しようと脳みそを起動する。


「……夢だな。よし、寝るか」


 脳みそをシャットダウンすると、俺は彼女の隣に潜り込んだ。


 そして、隣から聞こえてくる静かな寝息。

 毛布の中に宿った温もり。


(リアルすぎないか!?)


 感覚があまりにも生々しいことに気付くと、慌てて毛布から出ようとする。


 ——が、その手首を背後から掴まれた。


 鈴を揺らすような少女の声が、変わった口調で尋ねる。


「拙者に何をしたか」

「セッシャ……?」


 その声に、怒気や警戒らしきものは感じられなかった。

 ただ理解できないものに、純粋に説明を求めるような声だ。


「顔を見せてくれぬか?」


 胸がひゅっと縮む。

 ぎこちない動きで振り向くと、あどけない上目遣いが俺を捉えていた。


 赤い瞳は聖火のように暖かく、どこか柔らかい。

 隅々まで俺を観察した後、満足したように視線が戻った。


「言葉は通じるか? ジェペル語だ」

「日本語だと思うけど……通じてるよ」

「ニホン語?」


 コクン、と首を傾げる少女。その動作に合わせて、彼女の茶髪が柔らかく揺れる。


「えっと、気にしないで」

「そうか。————では、ここは何処か?」


「横須賀だよ」

「ヨコスカ……大陸の西部か?」

「どちらかというと、東の端かな……。」


(なんか話の規模が大きいな。)


 彼女は腕組みをして、静かに唸った。どうやら混乱しているようだ。


 それからしばらくして、大きな目をさらに大きくして俺を見た。


「——お互い、自己紹介がまだだった。名乗ろう」

「うん」

「拙者はティシア・リゼ・ミガトゥクス。修羅に溺れる流れ者だ」

「……聞いたことある自己紹介だな」



 それもそのはず、その名前は例のゲームの主人公のものだ。

 改めてこの少女を見れば、髪や目の色、話し方、雰囲気、全ての特徴が一致する。


(一致しすぎて怖い)


 そして、彼女の口から出た「ジェペル」という国名は、ゲームの舞台となった架空の王国。


 ドット絵の世界から現実に、『ティシア・リゼ・ミガトゥクス』を引きずり出したとしか思えない。



「貴様も名乗ってくれ」

「俺は、羅生門トウヤ。この部屋に住んでいる」


 それから、数秒の沈黙。


(反応薄いな。)


 日本人の名前を聞いて驚くかと思ったが、想像以上に彼女は冷静だった。特にこれといった反応はない。


 リゼは少しでも状況を理解するヒントを得たかったのだろうが、どうやら失敗したようだ。


 だが、俺は既に状況を飲み込み始めている。

 ドッキリ番組か何かじゃなければ、リゼはゲーム機から飛び出してきたということだ。


(意味わかんねー……。)


 原因ないし理由は分からないが、それはまだ考えなくていい。


「まずは、現状の問題点をリストアップしよう」

「そうだな」

「とりあえず、一番大きな問題は次の二つだ」



・ティシアは帰れるのか


・帰るまで時間がかかる、もしくは帰れないならその間どうやって生活するのか


「まずはゲーム機を調べてみるのが最優先なんだけど――」

「げぇむき?」

「……しまった。ティシアに話してなかったな」



 ティシアに、彼女がゲーム機から出てきたということを説明した。


 俺の語彙力がなさすぎて、理解してもらうのにかなり苦労した気がする。


「……つまり、拙者は異世界に転移した訳だ」

「そゆことデス」


(10分の説明、2秒で要約された件。)


「なら、まずはその『げぇむき』を調べてみないか?」

「うん」


 俺はコタツの上を見るが、昨日放置したはずのゲーム機がない。


「ん?」

「どうした」

「ちょっと待って」


 ベッドやコタツの毛布をめくったり、ベッドの下を覗いてみたり。


(どこ行った……???)


 状況を察したリゼが、言葉で俺を刺した。


「失くしたのか」


 リゼは、ほんの少しだけ眉を寄せた。

 ぷるぷると震えながら、俺は静かに頷く。


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