第33話 正しい反対は、止める理由にならない

反対は、予想よりも早く、予想よりも多かった。


作戦案が正式な議題として提示された瞬間、

会議室の空気は一段階、重くなった。

怒号はまだない。

だが、誰もが理解している。


――これは通してはいけない案だ。


「却下だ」


最初に口を開いたのは、政治側の代表だった。


声は低く、

だが一切の迷いがない。


「国家として認められない」


理由は、分かっている。


「自国民を、

 意図的に自爆兵器として運用する作戦」


「たとえ志願であっても」


「これは、

 国家の自殺行為だ」


俺は、黙って聞いていた。


反論は、まだ必要ない。


「倫理的に不可能です」


医療側の代表が、続ける。


「放射線被曝、

 熱傷、

 神経壊死」


「回復能力を集めたとしても」


「完全回復は、

 保証できない」


「それどころか」


「あなた一人を助けるために、

 何人の能力者を危険に晒すか」


「その計算を、

 あなたはしましたか」


した。


だが、今は言わない。


「前線としても反対だ」


軍の代表が、拳を握る。


「兵器としては、

 理解できる」


「だが」


「前例が最悪すぎる」


「一度これをやれば」


「次からは」


「“やれる人間”を

 探す戦争になる」


それは、

軍として最も避けたい未来だ。


「異世界連合としても、

 容認できません」


仲介官が、静かに言った。


「この作戦は」


「秩序を守るための介入を、

 秩序破壊に変質させます」


「あなたが成功すれば」


「“正しさのために、

 人を使い捨てる”という前例が残る」


全員が、

俺を見ていた。


視線は違う。


倫理。

政治。

軍事。

秩序。


だが、

全部、正しい。


俺は、ようやく口を開いた。


「全部、分かってる」


声は、

驚くほど静かだった。


「だから」


「これは、

 “作戦”じゃない」


会議室が、

一瞬、止まる。


「……何だと?」


「個人の選択だ」


俺は、

はっきり言った。


「国家に命じさせない」


「軍に実行させない」


「異世界連合にも、

 責任を取らせない」


「俺が勝手にやる」


「ふざけるな!」


政治側が、

声を荒げる。


「それを国家が

 黙認すれば!」


「黙認しろとは言ってない」


「止めろ」


「止めたうえで」


「止めきれなかった、

 という形にしろ」


空気が、

凍りつく。


それは、

あまりにも卑怯で、

あまりにも現実的な提案だった。


「……責任を、

 全部引き受ける気か」


軍の代表が、

低く言う。


「違う」


「責任を、

 消す気だ」


俺は、

一つずつ言葉を置いた。


「英雄にするな」


「殉職にするな」


「記録に残すな」


「成功しても、

 失敗しても」


「ただの事故にしろ」


医療側が、

唇を噛む。


「……それは」


「あなた自身を、

 守らない選択です」


「知ってる」


「だから、

 成立する」


沈黙。


誰も、

すぐに反論できなかった。


なぜなら。


この作戦を止めるための

 “現実的な代案”が、

 誰の手にもなかったからだ。


「……感情はどうだ」


幼馴染の声だった。


会議室の隅。


「怖くないのか」


俺は、

そちらを見た。


「怖いよ」


即答。


「でも」


「それは、

 やらない理由にならない」


幼馴染は、

何も言わなかった。


拳を握り、

歯を食いしばり、

それでも黙った。


会議室に、

長い沈黙が落ちる。


そして。


「……条件付きで、

 止めに入らない」


仲介官が、

ようやく言った。


「これは」


「我々が選んだ作戦ではない」


「あなた個人の、

 暴走として扱う」


俺は、

小さく頷いた。


それでいい。


「……だが」


仲介官が、

続ける。


「成功した場合」


「世界は、

 あなたを忘れられない」


俺は、

少しだけ笑った。


「忘れられないなら」


「思い出さなくていい形にしろ」


それが、

この作戦の最後の条件だった。

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