第24話 保険は、切れる瞬間に価値が出る
前線は、思っていたよりも静かだった。
正確に言えば、音はある。
爆発音も、警告音も、無線の怒鳴り声も絶え間なく続いている。
それでも、どこか落ち着いて見えた。
理由は単純だ。
配置が、整理されている。
無茶な突撃がなく、無意味な消耗もない。
「削れる役」が、意図的に前に置かれている。
その中心に、
幼馴染がいた。
「……入るぞ」
短い声が、無線に乗る。
返事は、簡潔だった。
「許可する」
「制約確認、問題なし」
「戦闘状態、トリガー成立」
幼馴染は、一歩踏み出す。
その瞬間、
医療・分析側のモニターに表示が走った。
【身体能力補正:上昇】
【自然治癒補正:有効】
【制約条件:戦闘状態】
数値が、
一斉に跳ね上がる。
「……来たな」
誰かが、低く呟いた。
最初のモンスターは、
正面から現れた。
大型。
重装。
突進型。
本来なら、
数人がかりで足止めする相手だ。
幼馴染は、
正面から受けた。
避けない。
引かない。
衝突音。
衝撃で、
地面が割れる。
一瞬、
誰もが息を止めた。
だが。
幼馴染は、
立っていた。
「……っ!」
呻き声は、出た。
肩口に、
爪が食い込んでいる。
骨に、
異音。
普通なら、
そこで終わりだ。
だが。
次の瞬間、
動きが止まらない。
踏み込み。
腰。
拳。
一連の動作が、
繋がる。
モンスターの巨体が、
横に吹き飛んだ。
「……回復、入ってる」
分析担当が、
画面を睨む。
【出血:停止】
【筋損傷:修復中】
【神経応答:回復】
速い。
速すぎる。
だが、
制御されている。
「……常時じゃない」
医師が、低く言った。
「戦闘動作に同期してる」
幼馴染は、
息を吐く。
短く。
「……まだ、いける」
次の敵が、
左右から来る。
幼馴染は、
一歩引いた。
その瞬間。
【戦闘状態:解除】
【自然治癒補正:低下】
数値が、
一段落ちる。
「……落ちたな」
分析担当が、
呟く。
幼馴染は、
すぐに前に出直した。
【戦闘状態:再成立】
【自然治癒補正:再有効】
また、
回復が走る。
「……完全に、
オンオフだ」
それは、
理想的な挙動だった。
怪我は、
確実に溜まっている。
骨への負荷。
内臓への衝撃。
だが、
戦っている間だけ、
“戻れる”。
「……これが、
ゴリラの保険か」
誰かが、
苦笑混じりに言った。
戦闘は、
数分で終わった。
モンスターは、
全滅。
幼馴染は、
その場に立ったまま、
呼吸を整える。
そして。
一歩、下がった。
【戦闘状態:完全解除】
【自然治癒補正:停止】
数値が、
一気に落ち着く。
幼馴染は、
膝をついた。
「……っ」
今度は、
はっきりと痛みが来た。
医療班が、
駆け寄る。
「無理するな!」
「分かってる」
幼馴染は、
息を荒くしながら言う。
「……だから、
ここまでだ」
担架に乗せられる。
だが、
意識ははっきりしている。
医師が、
確認する。
「感覚は?」
「……ある」
「回復は?」
幼馴染は、
少しだけ笑った。
「止まってる」
それが、
狙い通りだった。
モニターを見ていた全員が、
同時に理解する。
この制約は、
彼を不死身にはしない。
だが。
使い潰せなくもした。
俺は、
後方からその様子を見ていた。
派手じゃない。
英雄的でもない。
ただ。
「……正しいな」
幼馴染は、
“正しい削れ方”をしている。
それを見て、
俺は静かに思った。
次に、
試されるのは――
俺の制約だ。
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