テイクアウト(猫人アイテム商ノートンと負債の姫君外伝)

蒼空 秋

第1話

「やっと着いた~、あ~疲れた。それに熱いし」


 朝一番で王都を出たのに、テーベ村についたときは既に正午をまわってた。真夏の太陽に照らされて、汗だくの助手のサーシャはそうつぶやいた。


「ノートンさん、お腹すきました~」


「そうだな、路銀は心もとないが、とりあえず何か食べよう」


 だがお昼時であることもあってかどの店も客でいっぱいで、入ることができなかった。


「どうしましょう、ノートンさん。このままだとランチタイムが終わって、お店がしまっちゃいます」


「仕方がない。これお使うか」


 俺は鞄からランチボックスを取り出す。


「ランチボックスだ~、でも空みたいですけど?」


「ここに料理を詰めてもらうんだ」


「でも、このお店はテイクアウトはできないみたいですけど?」


「これは〝強制テイクアウト・ランチボックス〟といって、なんでもテイクアウトできるようになる魔法具なんだ。


 俺はランチボックスをもって、店の給仕と交渉する。アイテムの力のおかげで、通常の2割増しの値段を支払うことで、テイクアウトを承諾してくれた。


「よかった~」


 おいしそうにステーキが挟まったサンドイッチと冷製スープを食べるサーシャ。


「おかげで路銀が底をついてしまったな」


 あの店でテイクアウトしたのは失敗だったかもしれない。値段を確認してからにすべきだった。


「まあこれだけの街だ。何らかの仕事があるはずだ。少し、周ってみよう」


 こういう街には、俺のような魔法具を持った旅人相手の仕事があることが多かった。


「あ、あそこに仕事の立札があります。行ってみましょう」


 とある家の前に仕事募集の立札を見つけた俺達は、仕事の内容を確認する。


『この家に住まう霊を浄化してほしい。報酬は1000ゴールド』


「れ、霊の浄化!? こわい~!!」


「だが報酬はいいな」


「ほんとだ。でも怖い、やだ~」


「とりあえず、中に入ってみよう」


「え~。ああ、まってくださいノートンさん」




「私がこの家の住人のハドソンと申します」


 霊で困っていると言う割には、恰幅の良い男性が出迎えてくれる。


「アイテム商人のノートンです。まず本当に霊がついているか確かめささせてください」


「もちろん、お願いします」


 俺はカメラを取り出して、周囲の写真を撮る。


「なるほど、確かにこの家には霊がいるようです」


「なんでわかるんですか?」


「これは〝写っちゃうんです〟という名前の、霊を映すことができる心霊写真機です。ほら、ここに映っている」


「きゃ~!!なんで私の肩に!!」


 写真を見るとサーシャの肩に、青白い女の影が映っていた。


「とりあえずこの塩をまいてみるか」


「それは、清めの塩ですか?」


「いや、携帯用の食塩だ」


 長旅では塩が不可欠なので、持ち歩いていたのだ。


「……やはり、効果はないか」


「そりゃそうでしょ」


「この十字架も、効果ないな」


「クンクン、ちょっと臭いけど、何かの魔法具ですか?」


「いや、ニンニクを十字の形にかたどっただけだ」


 ニンニクの十字架で効果か倍増するかと思ったが、そうでもないらしい。


「そもそもこの霊、吸血鬼じゃない気が……」


「この手の霊を浄化するには聖都の聖塩をまくのがいいが、聖都は50キロくらい先だ。取って戻ってくるとなると往復100キロか」


「戻るなんて嫌です。塩とか重いし、外も熱いし」


「路銀も尽きたから、今夜は野宿だ。夕食はニンニクの塩焼きだけでいいか?」


「絶対に嫌です! 美味しいもの食べて柔らかいベッドで眠りたいです」


「仕方がない、この手しかないか。


 サーシャ、一人で除霊を行いたいから、少し家の外で待っていてくれ」


「はい!」




「昨日はふかふかのベッドで眠れたし、美味しいご飯も食べられた。これで涼しかったら最高なんだけどな~」


「まあな」


「あと、この道でいいんですか?」


「教会がある街に寄って行くから、この道でいいんだ」 


 俺はランチボックスを抱えながら、サーシャの質問に答える。昨日は大変だったが、依頼をうまくこなせてよかった。


「おまけにランチボックスにお昼の準備まで万端だし。どんなお弁当なのかな?」


「ああ!」


 驚く俺を無視し、サーシャはランチボックスを開く。


「あれ、空ですよ。お弁当じゃなかったんですか?」


「開けてしまったか」


 と俺はため息をつくと、怪訝そうな顔をするサーシャの姿を写真に収める。


「除霊に成功したんじゃない。持ち帰って聖都の教会で除霊するつもりだったんだ」


「へっ!? じゃ、じゃあランチボックスに入っていたのは?」


「……昨日の霊だ。今はサーシャの肩についている」


 写真を見せると、サーシャの片には青白い女の影が映っていた。


「きゃ~、どうして言ってくれなかったんですか!」


「言うと怖がると思ってな」


「しかもなんで私の肩にばっかり!」


「気に入られたのかもな。まあ、道中涼しくなって良かったと思おう」


「やだ~! お化けをテイクアウトなんて! 寒い!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テイクアウト(猫人アイテム商ノートンと負債の姫君外伝) 蒼空 秋 @reo0720

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る