正解じゃないほうへ、パレード

けいた@The27Club

第1話「正解が終わる、その少し前の話」

The End of the Correct Answer – Mini History


「正解が終わる、その少し前の話」


Peaceは、いつも“二つの世界”を同時に見ていた。


昼の世界は、きちんと整理されていた。

電車は時刻表通りに走り、人は「正しい言葉」を選び、感情は説明できる形に整えられていた。

けれど夜になると、彼の中のもう一つの世界が目を覚ました。


そこでは、

言葉は途中で壊れ、

星は街灯より低い場所に落ち、

「正解」はいつも少し遅れてやってきて、間に合わなかった。


Peaceはその世界を、誰にも説明できなかった。

説明しようとすると、途端に嘘になる気がしたからだ。



最初に音になったのは、闇だった。


ノートに書かれた歌詞は、童話のようでいて、不自然な切れ目があった。

〈扉は開いているのに/誰も正しい名前を知らない〉

そんなフレーズを、Peaceは夜明けまで何度も書き直した。


しかし、一人で鳴らす音には限界があった。

彼の世界は、もっと立体的で、もっと祝祭的で、もっと“他人の呼吸”を必要としていた。



Snowと出会ったのは、古いスタジオの片隅だった。


ピアノの前で、彼女は鍵盤を“弾く”というより、“物語を置いて”いた。

フェルトのかかった音が、夜の空気に静かに沈んでいく。


Peaceは一音目で分かった。

この人は、自分と同じ場所を見ている、と。


「きれいすぎる音は、少し怖いんです」

Snowはそう言って、わざと和音を濁した。

その濁りは、Peaceの心の闇と、奇妙なほど相性が良かった。



M@gicは、その世界を“現実に落とす”ために必要だった。


感情だけでは、音楽は都市を渡れない。

構造が必要で、設計が必要で、嘘を本当にするための技術が必要だった。


彼はPeaceのデモを聴いて、静かに言った。

「これは壊れてる。でも、壊れ方が正しい」


M@gicは、闇を整理しなかった。

闇が最も美しく見える照明を、ただ配置した。



Loveは、何も語らなかった。


けれど、ビートが鳴った瞬間、全員が理解した。

このリズムがあれば、迷子になっても帰ってこられる。


彼の一打は、儀式の合図だった。

「ここから始まる」と、体に直接伝えるための合図。



四人が揃った夜、Peaceは初めて言葉にした。


「正解を探す話じゃないんです」

「正解が終わった“あと”を、歌いたい」


誰も否定しなかった。

それどころか、その瞬間、バンドの名前が自然に浮かび上がった。


The End of the Correct Answer


それは絶望ではなく、解放の言葉だった。



2026年。

インディーズで出した最初の音源は、

説明しにくくて、少し奇妙で、なのに“なぜか泣ける”と言われた。


それは、Peaceの闇とファンタジーが、

三人の手によって現実の形を与えられた、最初の証拠だった。


まだ彼らは知らない。

この音楽が、2050年の事故と、もっと大きな物語へ繋がっていることを。


ただ一つ確かなのは――

正解が終わった場所から、物語は本当に始まるということだけだった。

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