第十六話 激突

☆午後十一時半 ギガント・ベース司令室 


「防衛ライン突破されました!!」


 大鎌を振り回し、基地へ迫りくる白の巨体。


「撤収!! 命を最優先しろ!!」


 その叫びに反し、私自身は逃げられない。首筋に冷や汗を流しながらも指揮を取り続ける。


「佐神司令!! 何やってるんです?!」


 九瀬君の言葉に、私は首を横に振る。


「司令が、逃げる訳にはいかんよ」


 ヴェルセクトを睨み付け、返した。


「私が逃げて、誰が守るというんだ?」


 直後、私の胸倉を掴んだのは、木野君だった。


「何処ぞの馬鹿みたいな事を……!! 仕事増やす気ですか!?」


 嬉しい言葉だった。私の目に狂いは無かった。


 ……だからこそ、だ。


「どうせ、私は逃げられん」


 見せびらかした松葉杖に、二人は遂に言葉を失った。


「私は避難誘導を続ける。君達は早く逃げるんだ。九瀬君を臨時司令として、高槻の基地にて迎撃を続けろ」


 立ち尽くす二人。俯いた苦渋の表情から、一言。


「「……申し訳ございません」」 


 トーチカ達を尽く斬り伏せ、ヴェルセクトは眼前に迫る。大鎌が白く輝き、金属音がレクイエムのように響く。


「これが、罰か」


 私は、静かに覚悟を決めた……




 次の瞬間、私は見た。振り上げた大鎌の背後に、蒼き巨体が立ち上がるのを…


 鋼の大角が、巨体をかち上げる。大きく仰け反るヴェルセクト、放たれた鎌鼬は天の彼方へ消えた。


 直後、雷鳴と共にその土手っ腹を黄金の閃光が襲う。悲鳴と共に、白の巨体は基地から押し返されてビルに叩き付けられ、崩壊と共に瓦礫の下に消えた。

 

 轟音と震動の中、私は何が起きたのか分からなかった。いや、正確には、『何が起きたか』は分かっていた。『何故か』を理解出来ないのだ。

 

 ……何故ゼージスが立っている!?

 

「「司令!!」」

 振り返れば、蜻蛉返りした二人の姿。


「九瀬君じゃないのか!?」

「誰が乗るものですか!! 司令しかいませんよ!!」


 私達が困惑する中、木野君が冷や汗を流す。


「……オレ、分かります」

「「え?」」


 木野君は、苦虫を噛み潰したような顔で答えた。


「一条竜です、そんな事をする馬鹿はあいつしかいません……!!」



 

 ☆午後十一時三五分 ゼージスコックピット 


 駆動音と共に、全方位モニターに大量のウインドウが表示される。


〈対象 ヴェルセクト 鎌からの真空波に要注意〉

〈パイロット生命維持装置稼働中〉

〈武装状態 良好〉


 突然、コックピットに通信。


〈竜、竜君なの?!〉


 サワさんの動揺と心配を孕んだ大声に、俺は静かに応える。


「ごめんなさい。今回は見逃してくれませんか」

〈何を言ってるの!? そいつは未完成、早く逃げて!!〉


 至極まともな正論に、俺は少し俯き、そして応える。


「完全に避難が終わるまでは、逃げられないですよ」


 サワさんは、言葉に詰まった。


「大丈夫です。死んでも、守り切ります」

〈ちょっと、そう言う事じゃ〉


 通信を切り、顔を上げる。手汗が、握った操縦桿を温かく湿らせた。ぐったりとした暦の腕に抱かれ、後部座席から三匹は心配そうに鳴く。


 瓦礫を吹き飛ばしながらヴェルセクトが再び姿を現す。憤怒に睨む赤の複眼が、ゼージスを睨み付けた。


(やるしかない……!!)


 咆哮がぶつかり合い、大阪が震動する。次の瞬間、土煙と共に巨体同士が激突し、コックピットは凄まじい衝撃に揺れた。蒼き鋼の巨体と白の大鎌が激しい火花と轟音と共に何度も何度も鎬を削った。


 振り下ろされた右鎌を剛腕で受け止め、捻じ伏せる。甲高い悲鳴、ギリギリと軋む甲殻。だが、俺は左鎌が白熱していることに気付く。どうやら、フェイントだったらしい。


 ならば……!!


 操縦桿を力の限り前へと押し倒す。滾る戦意に呼応する様に、装甲の隙間から勢いよく蒸気が噴き出す。咆哮し、前進するゼージス。大鎌は真っ向から切り裂かんと天へ振り上がる。まさにぶつかり合う寸前、俺は操縦桿のボタンを押し込んだ。


 瞬間、頭部装甲が駆動。現れた三対のバルカンが薬莢と共に火を噴く。それは、牽制の域を出ない小手調べ。だが、不意討ち、そして怯ませる為には十分な威力。


 連続した火花に、攻撃の軌道が僅かに逸れる。果たして、白熱の斬撃はゼージスの真横を掠め、鋼の大角がヴェルセクトの土手っ腹を殴り付けた。重厚なる一撃に白熱した左鎌は折れ、道路を溶かしながら大地に突き刺さる。体勢を崩され、悲鳴と共に大きく蹌踉めくヴェルセクト。


 直後、咆哮を伴い口から放たれた黄金の閃光がヴェルセクトの腹を撃ち抜く。激しく迸る雷撃と共に、その巨体は宙を舞い、再び瓦礫の海へと叩き付けられた。

 

 土煙の中、藻掻くヴェルセクトにトドメを刺さんと、俺は操縦桿に力を込める。燃え上がる主の戦意に応えるかの様に、ゼージスは咆哮と共に駆動し─


 突然の衝撃と共に、その動きを一瞬止めた。


〈警告!!バッテリー残量低下〉

(そいつはまだ未完成よ!?)


 サワさんの言葉が脳裏に過ぎる。いくらなんでも早すぎる、まだ起動して三分なのに……!!


 翼を羽ばたかせ、強引に飛び上がったヴェルセクトの大角がゼージスを貫く。バランスを崩し、吹き飛ばされた巨体が大地に叩き付けられる。コックピットに凄まじい衝撃が迸り、俺は激しく吐血した。


〈危険!! 撤退を推奨〉

〈素体バイタリティ低下〉

〈損傷ライン危険ライン突破〉


 警告達が吠える中、起き上がろうと藻掻くゼージスをヴェルセクトが踏み付ける。装甲が軋む不協和音に、市民達は思わず耳を塞いだ。怒り狂い、何度も何度も斬り付けるヴェルセクト。ゼージスの悲鳴と鮮血と共に機器が次々と火花を噴き、コックピットの温度が上昇していく。


「頼む、動け、動けよ!!」


 赤黒い血を垂れ流しながら、歯を食いしばり操縦桿をガチャガチャと動かす。だが、最初から勝負は付いていた。いくら高性能だろうと未完成品がマトモに戦える訳が無かった。


 徐々に力を失う抵抗に、ヴェルセクトは復讐の完遂を確信した。もはや動けぬ仇を蹴り飛ばし、再び基地へと進撃する。全身をナイフで滅多刺しにされたような苦しみの中、俺の意識は薄れていく。


(逃がして、逃がしてたまるか……!!)


 執念を糧に動き続けた肉体もやがて限界を迎えた。ゼージスが独特の駆動音と共に沈黙すると共に、充血した右目が閉じる。


 操縦桿を強く握り締めたまま、俺は力尽きた……

 

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