第八話 OPERATION Z-GIS
大咆哮。大地を揺るがし、猛然と進撃するゼージス。襲い来る鋼の怪物を前にヴェルセクトもまた敵対心を滾らせた。
大顎が開き、鞭声と共に舌が襲い掛かる。だが、迎撃は火花と共に装甲に跳ね返され、巨躯はますます加速。次の瞬間、驚愕する大顎を強烈なタックルがへし折る。轟音と共にビル群に叩き付けられ、ヴェルセクトはひっくり返ったまま藻掻く。
「あ、あいつ強いぞ!!」
「吹き飛ばしやがった!!」
人々の声が挑発に思えたのだろうか。ひっくり返りながらも甲高い咆哮を上げ、再び舌を発射。ゼージスは火花と共に受け止め、鉄の鉤爪で武装した屈強な両掌で捕らえた。
咆哮と共に装甲と人工筋肉が唸る。怪獣の蛮力に機械の怪力が融合した計り知れないパワーにより、至近距離へ引き摺りこまれたヴェルセクト。
瞬間、強靭な尾の一撃が叩き込まれる。舌を掴んだまま天高く打ち上げ、ゼージスはそのまま豪快に振り回した。ジャイアントスイングが風と化し、街を薙ぐ。髪をなびかせ呆気に取られる人々。だが、そんな困惑もやがて歓声へと変わっていく。
「誰かは知らないけど頑張れー!!」
「いいぞー!!」
ヴェルセクトの巨体が街へ叩き付けられ、土煙が吹き抜ける。立ち上がるも、折れかけた足取りはおぼつかない。にじり寄るゼージスに後退りするばかりだ。
僕は勝利を確信した。きっとみんなそうであろう。誰もが勝利の笑顔を浮かべ、絶望は去ったと固く信じていたに違いない。
……たった一人、意味深な表情のサワさんを除いて。
突然の異音。同時に、警報と共にゼージスの動きが、一瞬止まった。
鞭声と共にゼージスの首が締め上げられる。苦しげに唸り、藻掻くが、振り解けない。甲高い咆哮が街に鳴り響き、鋼の巨体は轟音と震動と共に街へ叩き付けられた。
「な、何だ!?」
「急に弱体化したぞ!!」
僅か三十秒で戦況は逆転した。ゼージスは首を絞められ、街を巻き込み引き摺り回され、執拗に叩き付けられる。装甲が意味を成さぬ内部へのダメージ。痛々しい悲鳴の中、大地は揺れ、吹き飛ばされた瓦礫が恐慌する大通りに降り注ぐ。
「サワさん、急にどうしたんです!?」
「やばい、エネルギー切れよ!!」
額に冷や汗が滴る。
「稼働時間に難ありって何度も言ったのに!! やばいからって無茶よ!!」
次々と襲い掛かる舌達に全身を締め付けられ、ゼージスの装甲が軋む。鳴り響く不協和音、僕は思わず耳を塞いだ。
「各基地に通達して!! さらなる援軍を!! スキを作って!!」
携帯に叫ぶサワさん、だが、返事は残酷そのものだ。
〈駄目です、どこから飛ばしても五分はかかるそうです。とてもじゃないですが間に合いません!!〉
十分ダメージは入っている。あと一撃、だがそれが、果てしなく遠い。援軍は遅すぎるし、近くのトーチカたちは軒並み倒され煙を上げている。八方塞がりのように思えた。
不意に背後から今までとは違う悲鳴が響いた。直後、悲鳴の正体…一台の軍用トラックが猛スピードで飛び出す。
〈危険!! 火薬積載中〉
荷台に派手な警告マークを光らせ、人々の流れに逆らい爆走する。
「局長!!」
背後から息を切らした声が響き渡る。胸にエンブレムを輝かせた金髪の青年の表情は深刻そのものだ。
「えっ、どうしたの?」
青年は走り去るトラックに睨むような視線を向けた。息を整え、彼は叫ぶ。
「あいつ、またやるつもりです!!」
トラックはますます加速し、大通りを突き進む。僕は気付く。あのトラックの目的を…
次の瞬間、爆音に人々は思わず振り向いた。激しい炎と共に、熱風が僕らの頬を撫でる。見たこともない凄まじい大爆発に、遂に足がボキリと折れる。甲高い悲鳴と共にバランスを崩した巨体が大地へ崩れた。
果たして、戦況は再び逆転した。巻き付いた舌がブチブチと引き千切られ、片顎を重厚な両掌が捕らえる。
刹那、鬣が逆立ち、瞬く間に黄金に染まった。大きく開いた喉奥に稲妻がバチバチと迸り、渦巻く。折られた足で抵抗するヴェルセクトを力任せに抑えつけ、オーバーヒートした装甲が異音を叫ぶ。
次の瞬間、視界が黄金に染まった。放たれた一撃は雷鳴と共に硬い甲殻を貫き、地を穿つ。僕達は悲鳴を上げ、思わず蹲る。凄まじい威力に互いの巨体が吹き飛ばされ、迸る激雷。吹き抜ける強風の中、断末魔と共に静寂が訪れる。
倒れ伏すヴェルセクトに開いた風穴から体液が泡立つ。瓦礫達もろとも亡骸を飲み込み、膨んで固まる巨大な泡のドーム。動きを止めたゼージスはその様を沈黙したまま眺めていた。
「……あの馬鹿共。何とかなったからいいものを」
安堵する人々に対して、あまりに複雑な表情がそこにはあった。
「ゼージス、大丈夫なんですか?」
「あれでぶっ壊れたら、あんな無茶もできないわ」
携帯に、サワさんは指示を飛ばす。
〈監視局に通達。ゼージスの回収及び現場の封鎖開始せよ。あっ、あと広報局に記者会見もお願い〉
そんな彼女の視線は、一人の青年を見据えていた。ボロボロのまま、覚束ない足取りでこたらへ向かうその姿を、僕は何故か知っていた。
「……また、あたしを悲しませるの? 竜君」
英雄、一条竜は煤のついた顔で申し訳無さそうに微笑み、そのまま倒れた。
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