第2話 リシアちゃんにグロウと結婚してもらった方が嬉しいわぁ



【リシア視点】


「(本当に……グロウさんが勇者じゃなければ、どれだけ良かったことか)」


 二人との会話の後。

 私は、テントに戻って、物憂げにため息をついた。


「(彼に惚れないように……必死に冷たい態度を取っているのに、グロウさんに惹かれている自分がいる……)」


 彼と話すたびに、彼が近くにいるだけで……こんなにも胸が高鳴ってしまう。


 ――もしも、グロウさんが勇者じゃなければ……あんな掟なんて、無ければ……。


 そう思わずには居られなかった。


「(もし、来世があるのなら、今度は勇者と聖女としてではなく――普通の男女として出会いたいです……)」


 どうか、神様。

 掟を守り、今まで神に尽くしてきた私に、そんな慈悲を与えてくれませんでしょうか。


 私は、両手を組み、目を瞑り、静かに祈った。




 ――そして、その願いは、思わぬ形で叶うのでした。



 ――――――――――――――――――――


【グロウ視点】



「三人とも、ここの近くでちょっと寄りたいところがあるんだが……いいか?」


 翌朝。

 俺は三人を呼び出し、次の目的地の相談をしていた。


「寄りたいところですか……変な場所でなければ構いません」


「そうね、グロウがそんなこと言い出すのは珍しいし、いいんじゃないかしら」


「私も同意ですっ!」


「ありがとう、みんな……実は、この近くに俺の故郷の村があってさ。母さんの様子を見ていきたかったんだ」


「そういうわけでしたか……四天王を倒した休息にもなるでしょうし、どうぞお好きにしてください」


「じゃあ、すぐに支度して出発しようか」


 そうして、俺たちは俺の故郷の村――イドナ村へ向かうのであった。









「ふぅ……ようやく着いたな」


 歩くこと数時間、俺たちはようやくイドナ村に到着した。


「(このボロッボロの門も、懐かしいなぁ……母さんは元気にしているだろうか?)」


 俺は、すぐに家に向かいたい気持ちを抑えつつ、三人に視線を移す。


「俺は一旦、母さんのところに行くけど……三人はどうするんだ?」


「私は、テキトーに村の外でモンスターでも狩ってこようと思います!」


「じゃあ、私は……確か、ここら辺に珍しい薬草があったはずだから、それを採取してこようかしらね? ……それで、リシアはどうするの?」


「私ですか……この村には教会もありませんし、特にやることはございません……ですから――」


 リシアは迷うような仕草をすると、俺の目をまっすぐ見て、口を開いた。


「グロウさんについていってはダメですか?」


「……へ?」


 俺についていく……?!

 あのリシアがそんなことを言い出すなんて、珍しい。


「別について行っても構わないけど……そんなに楽しいものじゃないと思うぞ?」


 何せ、母親に会って、少し墓参りをするだけなのだから。

 面白味なんて全くないだろう。


「それでも、私は構いません。暇潰しになれば、それでいいですから」


「そ、そうか……」


「ふぅん? ……まあいいわ。じゃあ、私たちは村の外に行ってくるから」


 ラミリアは不思議そうな目線をリシアに送ると、ユリナと共にその場を離れた。


 この場には、俺とリシアだけが残される。


「(リシア……一体、どうしてなんだ?)」


 いつも無表情で何を考えているのかわからない彼女だが……もしかして、俺に興味を持ってくれたのだろうか。


 だとしたら、願ったり叶ったりだ。


「それじゃあ……リシア、行こうか」


「はい」


 でも、なんだか俺には、それ以外の理由があるような……そんな気もした。



 ――――――――――――――――――――――



「母さん、ただいまー! 俺だよ、俺!」


「その声はもしかして――グロウ!」


 家の扉を叩くと、そこから現れたのは、エプロンをつけた黒髪の女性――母さんだった。


 母さんは、俺を見るや否や、顔をぱあっと明るくさせる。 


「グロウ、いつの間に帰ってきたのね……!」


「偶然、ここの近くを通ったから寄ったんだよ……それよりも、母さんが元気そうで良かったよ」


「ふふっ、そんなの当たり前でしょう? グロウが勇者になったお陰で、国がお金を出して私の病気を治療してくれたんだから」


「そう……だね」


 一年前。

 母さんは病気を患っていた。


 不治の病というわけではなかったが……治療には大金が必要だった。

 それが、俺が勇者として偽って生きていくことの一つ目の理由だ。


 勇者になれば――大金が稼げる。

 いや、それどころか国が俺のために、母さんの治療費を立て替えてくれるかもしれないと思ったのだ。


 実際に、その予想は当たった。


 母さんの病気は完治。今はこうやって元気に生きてくれている。


「それよりも、グロウ……聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」


 すると、母さんは真剣な表情で俺を見つめてきた。


「ど、どうしたんだ?」


 もしかして……俺が勇者でないことがバレたのか?

 不味い……だとしたらかなり面倒だ。


「――グロウの後ろにいる女の子って……もしかしてあなたのお嫁さん?」


「へ?」


 後ろの女の子……?


 俺は振り返ると、そこには無表情で静かに佇むリシアの姿があった。


 そうだ、リシアも今日は一緒なんだった……!


「グロウもやるわね……こんなに可愛いお嫁さんを連れてくるなんて……!」


「い、いやいや! 何言ってるの母さん?! リシアは聖女! ただのパーティメンバーだよ?!」


「本当に? 別に隠さなくたって良いのよ?」


「だから、本当に違うって……!」


 ここは、本人に言ってもらうのが一番だろう。


 俺はリシアに助けを求めるような目線を送る。


 すると、リシアは一歩前に出て、自己紹介を始めた。


「聖女のリシアです。グロウさんの言う通り、私はただのパーティメンバーですよ」


「……ふぅん? なんだ、本当なのねぇ……まあ、そうよね、聖女様は勇者であるグロウとは結婚できないものね」


「っ?! ……そうですね、掟で勇者は王女様と結婚しなければならないと定められておりますから」


 すると、母さんはリシアの元に歩み寄り、小声で何かを囁いた。


「……でも、私としては一度も会いにきてくれたことのない王女様なんかじゃなくて、リシアちゃんにグロウと結婚してもらった方が嬉しいわぁ」


「っ……お、掟ですから!」


 リシアは少し眉をひそめていた。


 詳細には聞こえなかったが、何か変なことを言っているということはよーくわかった。


「母さん? 変なことを言わないでくれよ? ……リシアは大切な勇者パーティの一員なんだから」


「あら……! その様子じゃあ、私が口を出す必要なんてなかったみたい」


 どういうことだ……?


 なんだか、勇者じゃないとバレるよりも面倒な展開になっている気がする。


「それよりも、ずっと立ち話するのもなんだし、中に入りましょう? この前、焼いたクッキーがまだ置いてあったはずだわ」


「……いや、大丈夫だよ母さん。それはまた今度にしよう。今日はこれぐらいにして、帰ろうと思うんだ」


「あら? せっかく帰ってきたと思ったら、もう行っちゃうの? 折角なら泊まって欲しかったのに」


「遠慮しておくよ……俺は、勇者だからね」


 俺だって、本当ならもっと話していたいが……勇者として、これ以上、時間を無駄にするわけにはいかなかった。


 それに――まだ、寄りたい場所はあるからな。


「ふぅん……勇者ねえ……それにしても、今でも信じられないわ、グロウが勇者だなんて」


「え?」


「だって、グロウって昔は凄く臆病だったし、喧嘩も全然強くなかったじゃない? どっちかっていうと、近所のアレン君の方が勇者っぽかったわよね」


「っ……?!」


「正直、勇者だって判明した時は、神様が近所のアレン君とグロウを間違えたのかと思ったのよね」


「か、母さん? 急にどうしたのさ」


「あら、ごめんなさい。ふと、昔のことを思い出しちゃったわ……」


 母さんはそう言うと、申し訳なさげな表情をする。


「(良かった……俺が勇者じゃないって勘付かれたのかと思った)」


 俺は安堵で胸を撫で下ろした。


 だって、アレンこそが――本物の勇者なんだから。











 ちなみに、グロウが、冷や汗を流している時、リシアは――



「(――わ、私がグロウさんのお、おおおおお嫁さんに……?! ……お義母さんって呼んでもいいかな……?)」


 無表情の裏で、めちゃくちゃデレていた。

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