災厄のオッドアイ 今世こそ聖眼の真価を取り戻します!
小采叶
プロローグ. 災厄の瞳をもつ王女は処刑される
「第三王女リシェル・エルディア。災厄の瞳を持つお前に慈悲をかけてくださった陛下を裏切った罪は許されるものではない。よって斬首刑に処す」
王宮門前の大広場に設置された、処刑台のうえでリシェルは震えながら首を振った。
「そんな……。私は陛下を裏切ってなどおりません」
リシェルの叫びは民衆の声にかき消される。
「オッドアイのバケモノめ」「うまれたこと自体が罪なのだ」「おとなしく王国のために祈っていればいいものを」門前に集まった民のあちこちからリシェルを非難する声があがっている。
「……私は、王妃様の指示に従っていただけです。どうかお願いです。王妃様に確認してください」
捕えられ、地下牢に閉じ込められた時から懸命に訴えているがその言葉に耳を傾ける者は誰ひとりとしていなかった。
処刑台の後方には、エルディア王国の国王でありリシェルの父アルフォードが王座に座っているが、冷たくリシェルを見下ろすだけだった。リシェルは最後の望みを捨てきれず、処刑執行人の隙をついて振り返り、父アルフォードの隣に腰かける王妃に向かって声を振り絞って叫ぶ。
「マルグリッド様!これは何かの間違いです。私は頼まれたことをこなしていただけですっ。ど、どうして……」
その言葉が言い終わる前に、処刑執行人は強く彼女の頭を押さえつけた。
聞こえたのであろう、王妃は手に持った黒の扇をぱっと広げ右手にいる国王には見えぬよう口元を覆うと、ニヤリと笑って、唇を動かす。その動きを逃すまいと目を凝らしたリシェルを再び絶望が襲った。
「馬鹿な子。さっさと死になさい」
王妃の唇の動きを読んだリシェルはすべてを悟った。すべては王妃の企みだったのだと。自分はただいいように利用されていただけでなく、自分で自分を死に追いやることに、手を貸していたのだ。
もう抵抗する力はなかった。左右の瞳の色が違うのはリシェルが選んだものではないというのに、オッドアイは王国では不吉なものの象徴だったため、リシェルは十六年間ずっと虐げられつづけた。唯一の希望を断ち切られたリシェルはもう何もかも本当に諦めた。広場の前の民衆の罵倒も、後方から聞こえる、半分は血がつながっているであろう姉王女たちの薄ら笑いも、もうどうでもよくなってしまった。
やっと苦しみから、この孤独の悲しみから、自分を痛め続けた全てから解放されると静かに目を閉じた。好きで忌み嫌われるこの容姿、不吉なオッドアイをもって生まれたわけではない。けれども、これがすべての元凶で私の人生はずっと苦しかった。
鈍くて冷たい感触が首に触れた瞬間、リシェルは虐げられ続けた人生を終わらせることができると安堵した。
ーーようやく楽になれるのね。また、この瞳のせいで辛い人生だった。もうこの瞳にはうんざり。今度こそ普通の目を持って生まれたいわ……
『……私、いま今度って思った?』
『それにどうして「また」なの?』
自分で思い浮かべた、その言葉に引っかかり、胸の奥がざわめいた。今さっき確かに首を刎ねられた感触があるというのに。
霞んでいく意識の中で、リシェルは気づき始めていた。
ここではない、まったく異なる世界で、一度生きたことがある――と。
突然蘇った前世の記憶に意識が覚醒していく。
それよりも、私はついさっき斬首刑に処されて死んだはず。死んでも何かを考えることができるなんて、私の魂は天にも昇れないのかしら。
徐々にはっきりしていく意識のなかで、リシェルは別世界での記憶を思い出していた。
あの世界での私は、見えない何かと話す子どもだった。両親はそれを恐れ、叱りつけ、やめさせようとしたけれど幼い私は、現実にいる人と見えない存在の区別がつかず、理解できないまま捨てられた。孤児院に引き取られても、寂しさに耐えきれず、ふとした瞬間にまた「見えない誰か」と話してしまった。そのたびに周囲は怯え、私は孤立していった。
――そうだ。私は、あの世界でも嫌われ者だった。だから「また」なのだ。この特殊な瞳のせいで、今度と同じように。
リシェルはあの世界、こことは異なる異世界での記憶が蘇ったのと同時につい先ほどの処刑の瞬間までの記憶も現実であることを悟り混乱する。なぜこんなに思考をめぐらせることができるのだろうか。
『え、まって。まって。どういうこと。私はリシェル。災厄のオッドアイを持つ第三王女として生きていたわ。そしてさっき斬首刑に処されて・・・・・・いったい今、私はどういう状況なの』
今度こそ覚醒したリシェルは目をあけた。そこは離宮の自室のベッドの上だった。見慣れた天井が見え、首を窓辺に傾ければ、暗い部屋のなか、カーテンから淡い月の光が差し込んでいる。ベッドサイドを見れば見慣れたチェストが置いてある。
とりあえず身体を起こしてみると、思い通りに手足も動いた。そっと首の後ろに手を回せば、ちゃんとつながっているし、もちろん痛みもない。
そっとベッドを降りると、おそるおそる、窓に近づき外を覗き見る。月夜に照らされた小さな庭は確かにリシェルが十歳まで過ごした離宮に間違いがなかった。
「一体、どうなっているの・・・・・・」
つぶやいたリシェルはさらに混乱するものを目にする。
「え、え。どういうこと? 私小さくなってない?」
外を覗くために引いたカーテンから月の光に照らされたリシェルを壁際にある鏡が写している。その姿はさっき処刑された十六歳のリシェルではない。
慌てて鏡に近寄って確認する。そこには顔つきも幼い、十歳ぐらいの少女が写っている。青白くひどく不健康そうだが、確かに見覚えのある自分の顔、そして左右違う瞳の色は自分のものだ。リシェルは頭を抱えて座り込んだ。
色々な方面で頭が痛い。
現状をひとつも理解できないし、何より気力も限界だった。
よろよろと立ち上がりベッドに移動すると、目を閉じた。夢なのか、迷える魂の残滓なのかはわからないけれど、ひどく疲れている。
処刑前は眠れない日々を過ごしていたのだから当たり前と言えばそうなのだけれど。
もしかしたら、斬首のショックで混乱した魂が夢をみているのかもしれない。
リシェルはこれ以上何も考えられないので、ベッドにもぐりこんでもう一度目を閉じることにした。ちょっと肌ざわりの悪い上掛けも、固いマットのベッドも、さっきまでいた地下牢に比べたら天国だ。
ーー神さまがいるならばお願いです。私の魂が今度こそ安らかに眠れますように。
小さくつぶやくと、リシェルはすぐに意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます