第5話 パーティー内の喧嘩はスライムも食わない⑤
side:メリア
欠伸を噛み殺しながら今日も窓口に立つ。
寝不足なのは放送のせいと言うよりは、昨日オルフェが帰してくれなかったから……んんん違うわ、私が彼を帰さなかったんだっけ。
だんだん昨晩の記憶が蘇ってくる。
放送が終わって、裏口で待ち合わせて、それから……大量の肉をかっ食らって、お酒を浴びるほど飲んで……全部奢らせて帰ったんだった。
あの時のオルフェは何かを諦めた顔をしてた気がする。
「よぉ」
肩がびくっと震える。
後ろを振り向くのが怖い。彼はどんな顔をしているだろう。
ギギギッと金属のバルブをひねる時のようにぎこちなく首を回すと、案の定昨日の財布……じゃない、オルフェが立っていた。
「お、おはようございます……」
「なんで敬語なんだよ」
「昨日は、その、」
下から見上げるように彼へ視線を飛ばす。
いつもと変わらない仏頂面。
鮮明になった昨日の記憶を辿ると、目尻をふにゃっと下げた優しい表情の彼。
うう、メロい。
うう、酔ったときのオルフェってこう、なんというかグッとくるんだよね……素面の時は素うどんみたいな顔してるくせに。
「なんでもないわ、素うどん」
「素うどん?昨日あれだけ食べたのにまだ……」
彼の視線が下がっていく。
「ちょっと、お腹見るのはやめてよ〜〜」
「見てないって、言いがかりすぎる」
絶対見てたもん。
「あ、おい一番乗りのパーティ来たぞ。仕事仕事」
そう言いながらギルドの奥へと消えていくオルフェ。
ほんの少し、彼の魔力が残っている気配がしたのはきっと気のせいじゃないだろう。
◆
新しいクエストを受けに来たらしいそのパーティーは、どうやら4人組のようだった。
受付嬢としての本能は、反射的に彼らのパーティー構成とレベルを品定めする。
腰に提げた剣や杖、防具の品質、その手入れの具合、あとは……。
ほとんど無意識に魔力を瞳に集中させる。
彼らの魔力量は……あら、結構多いじゃない。ちんまりした4人だと思ったけど、意外とレベル高かったのね。
朝オルフェが仕入れてきた……仕入れさせられてきたクエストを頭に思い浮かべる。
うーーーん、彼らレベルなら初心者用を回すのは勿体ないわね。
そんなことを考えていると、窓口に近付いてくるパーティー。
見たところ戦士にヒーラーに魔法使いに、踊り子。
口角を重力に従わせるのに必死だ。
なるほどなるほどなるほど……。戦士とヒーラー、踊り子が前を歩き、後ろに大人しそうな魔法使い。
間違いないんじゃないかしら。
耳をすませて彼らの話に集中する。
「俺はこのオークのクエストを受けようと思うんだけど……」
「ばかね!どこの女の子が臭いのきついオーク狩って喜ぶのよ。この羊毛の納品にしておきなさいよ。あの子も喜ぶわ!」
踊り子がクエストボードを指さしながら口を開く。
おや、思っていた関係と違うかしら……?
とはいえそのレベルで簡単な納品クエストを受けるのはやめて欲しい。中堅には簡単でも、初心者たちにとっては大切な食い扶持なのだ。
「いや、こっちのワイバーンにしましょうよ。ちょっと苦戦するくらいがかっこよく見えるって。怪我なら私が治してあげるから、さっさとあの子にアピールしなさいな。私たちがどれだけやきもきしてるか……」
落ち着いた声のヒーラー。
ワイバーン、確かに彼らのレベルなら狩れないこともないだろう。
ただ苦戦は必至だ。最悪防具や武器の一つは捨てなければならないだろう。
そんなことよりも。はぁ〜〜〜そういうことね、やっとわかったわ。
まさか魔法使いちゃんが気がついてなかっただけだとは!
それで3人で話してたら本末転倒じゃないかしら……あ、だからオルフェは「よく見て」って言ったのね。
あの仏頂面に恋愛の機微で負けるのは腹立たしいけど。
というか、というかどうして自分に向けられる好意には鈍感なのに、他人の恋バナには的確なアドバイスができるのよ。
もんもんとしていると4人が目の前に。
「ようこそ王都ギルドへ!」
いつもの笑顔を貼り付けて挨拶。
「あの、俺たちに合いそうなクエストはありますか?」
礼儀正しい戦士君。
ふむふむ、「わかってる」冒険者ね。概ね好印象!
ギルド職員はただの事務処理屋さんではない。
遭難した冒険者の救助や戦闘指南、彼らのランク認定等、意外と武闘派な仕事も多い。
そもそも元冒険者や騎士団からの転職者、学院の好成績者を採用するわけだから、実力は保証されていると言っても過言ではない。
だから中堅冒険者にもなると私たちに意見を聞く。
今市場で足りていない素材は何か、平原や森、洞窟や火山、砂漠や海、彼らがこれから向かう場所に異変はないか。
最新の情報を把握するのも我々ギルドの務め。
ならば、ならば私はその信頼に応えよう。
彼らにぴったりなクエストと、戦士の恋心が成就するお手伝いを。
「あなたたちなら大抵のクエストは受注できるわ。あとは好みの問題」
視線を後ろでおどおどしている魔法使いちゃんに飛ばす。
「今あなたたちが持ってるオークもワイバーンもいいけど……あ、羊毛は初心者のために置いておいてあげてね」
4人組の中堅パーティー。
これからきっとまだまだ成長して、いずれはギルドの看板を背負ってくれるだろう。
では、良いパーティーの条件とは何か。
攻守のバランスがとれていることか?大量のクエストをこなしていることか?それとも常に最強を目指していることか?
否、否である。
一番大切なのは、全員が全員に対して負い目なく自分の役割を全うできることだ。
であれば、彼らに足りないのは。
「よかったらさ、後ろの魔法使いちゃんにも聞いてみたら?」
ハッと顔を上げる魔法使いちゃん。
瞳に映るのは、困惑と迷いと、ほんの少しの勇気。
そう、何か考えがあれば口を開けばいい。あなた達は誰もりもお互いを信頼しなければならない、パーティーなんだから。
「わ、私はロックバードがいいと思います!だって、だって昨日の夜、受付嬢さんが……」
しりすぼみになる声は、それでも残りの3人の耳には入ったようで。
彼らは目を合わせて大きく頷き合うとこちらを振り返った。
「ではロックバードにします。他ならない彼女が決めたことなので」
まったくいい顔をする。これだからこの仕事は辞められない。
受付を済ませて彼らの後ろ姿を見送る。
テンションが上がったのは、決してロックバードを使ったツマミが安くなるからじゃないから!
そんな誰に対してかわからない言い訳をしながら、私はロックバードのクエスト受注書を「処理済」の箱に入れた。
この結末はきっと彼のお気に召しただろう。なにせ予想が合っていたばかりじゃなく、進展が見られたから。
「これで満足かしら?」
一言呟く。まるで独り言のように。
私が「気付いている」ことを悟らせないように。
ねぇ?あのパーティーが来た時から魔法で盗聴していることを私が知らないと思っている世界一鈍感な甘々ギルド職員さん。
◎◎◎
恋愛相談回、完。
こんにちは、七転です。
こんなテンションでやっていきます。
異世界書くのが初めてなので諸々ご容赦を!
いいやんって思ってくださった方は、下からポチッとレビューと感想をいただけたら嬉しいです。物語が続きます。
カクヨムに登録されていない方は、これを機にぜひ!!!!!!!!
ではまたお会いしましょう。
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