第三章 謎の存在と刑事、それから
やって来た研究員達に向かって、めぐりは尋ねた。
「これで五人ですね。足りないのはどなたですか?」
「なっ、なんですかいきなり!」
「そもそも、どちら様で……?」
「夢宮めぐりと申します。うちとこちらのビビり散らかしている貴島はんは、幸矢博士に用があってこちらへ訪ねてきました」
「わたしは栗沢美琴。プライベートで近くまで来ていたのだけど、訳あってここに辿り着いたのよ」
めぐりと美琴が自己紹介とここにいる理由を説明すると、彼らは戸惑いつつも一人ずつ名前を明かした。
「俺は吉原直紀だ」
「池上紗英よ」
「平河賢司」
「小林朱璃、です」
「改めまして、僕は澤浦優です」
「……私は、貴島桃吾」
その場にいる全員のフルネームをノートに片仮名で記し終えためぐりは立ち上がり、冷静に尋ねる。
「幸矢博士の研究室は、どちらですか?」
「お、おい、まさか行く気なのか!?」
「駄目ですよ! 博士の研究の邪魔をするわけには――」
「ここまで騒がしくしても来ないなんて、明らかに異常やないですか」
その瞬間、時が止まったように静まり返った。
「見に行きましょう」
最初に沈黙を破ったのは美琴だった。先程までの穏やかで明るい声とは違う、静かながらもはっきりとしたトーンで、言葉を続ける。
「もしその方の身に何かが起こっていたとしたら大事件よ。研究どころでは無いわ」
「どなたか、案内をお願いできますか?」
「……じゃあ、私が」
そんな言葉と共に控え目に挙手をしたのは、研究員の一人である朱璃だった。
「こちらです」
案内された部屋の前で、めぐりはまず扉をノックをしてみる。
返事は無い。
「すみまへんが開けますよ!」
ドアノブに手をかけ、一気に力を込める。扉に鍵はかかっていなかった。
「ん? 変やな。すんなり開いて――なっ……」
「これは……!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
めぐりが絶句し、美琴は目を見開き、朱璃の悲鳴が研究所内に響き渡る。
散らかった部屋の中、不自然な程に綺麗に片付けられた机の上。
その近くの床には一人の中年男性が泡を吹いて倒れている。そこから少し視線を動かすと、捻じ曲げられた金属製の檻があった。
そして、部屋の中央からめぐり達を鋭く睨みつけるどこか異質な存在。
明らかに不自然な光景が、そこにはあった。
「なっ、何があった!?」
「どうしたの!?」
悲鳴を聞きつけた他の者達が何事かと急ぎ足でやって来る。そんな中、美琴が吠えるように叫んだ。
「全員動かないで!」
それを命令と受け取っためぐり達は一斉にぴたりと動きを止める。しかし、部屋の中にいた存在はそれに従わず、窓に向かって突進した。
「させへん!」
考えるより先に、身体が動いた。
「ちょっと!?」
美琴が叫ぶ中、めぐりは部屋に踏み込むと、迷わずその存在を背後から自らの腕で拘束した。
「ハ、ナ、セ……!」
「嫌や! あんたが何者であろうと一回話聞かへんとうちの気が済まんわ!」
「ハ、ナ、シ……?」
暴れていた相手の動きが一瞬鈍る。
「そうや! 話や!」
しかし次の瞬間、めぐりの腕はとても強い力で振りほどかれてしまい、自由を得た相手はそのまま窓を割って逃走した。
謎の存在によって割られた窓を呆然と見つめていためぐりは、美琴の怒声で我に返った。
「ちょっとあなた! どうして現場を荒らすようなことしたのよ!?」
「それは、その……すんまへんでした」
「……全く。まぁでも、こんな状況でなければ表彰ものね。勇敢にも程があるわ」
「あの、うちなんとなく気づいてしもうたんですけど、栗沢はんてひょっとして――」
「その前に、そこの彼の脈を確認しないとね」
美琴は倒れている男性の首筋に手を触れると、小さく首を横に振った。
「……遅かったようね。細かくは鑑識に回さないとわからないけど、亡くなってからそれなりに経っているかもしれない」
「栗沢はん、やっぱりあんた――」
「お察しの通りよ。プライベートだから黙っていたけれど、事件が起きた以上はもう隠せないわね」
「あ、あの、さっきからあなた方二人は何を……?」
震える声で尋ねた朱璃に、美琴は廊下にも聞こえるよう大声で告げた。
「警察の者です。これから皆さんに事情聴取をさせていただきます」
「……それならうちも、同席してええですか?」
すると美琴は眉をひそめ、子供に説教をするような厳しい口調で言った。
「あのね、これはドラマや遊びじゃないの。一般人が首を突っ込んでいいようなことじゃ――」
「うちはただの一般人やない。これでも一人の探偵や!」
「えっ、探偵?」
「なんですって……?」
現場が驚きに包まれる中、めぐりは探偵としての言葉を紡いでいく。
「幸矢博士と連絡が取れないから調べてほしい。ある方からの正式な依頼でうちらはここへ来ました。フィクションみたいな謎解きごっこをしたいとか、出しゃばりたいとか微塵も思ってません! ただ、調べた結果を、真実を、依頼者はんにきちんとお伝えする。それが、探偵であるうちの仕事であり使命なんです!」
「おい貴様! お嬢様にあれほど他人には言うなと――」
「そんなこと言ってる場合やないやろ! 今事件起きとるんやで!? 知っとること言っとかんと警察も捜査に困るやんか!」
貴島からの怒声にめぐりが怒鳴り返すと、近くで大きな溜め息が聞こえた。見ると美琴は呆れたような目をしつつも、その口角は僅かに上がっていた。
「栗沢はん……?」
「……全くもう、わかったわ。あなたが本気でこの事件に向き合おうとしていることは充分伝わった。事情聴取に同席するのは自分が犯人を突き止めたいからじゃなくて、あくまでも依頼者さんに真実を教えるため。それも理解した。その上で言うわね」
美琴はめぐりの目を見てはっきりと告げた。
「いくらちゃんとした理由や信念があっても、あなたの同席は認められません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます