雪の肌
シバカズ
雪の肌
肌とは人体を覆っている表皮であるが、職人肌などその人の気質や気性を表す時に使用する言葉でもある。
皮膚の劣化ほど、その人の老化を外見上で明確に判断できる要素はなく、老化の定義は機能の劣化でもある。
人間には修復機能が備わっており、細胞分裂によってDNAの遺伝子コントロールを行っている。しかし、これは年月の経過に伴い失われていく能力でもあった。
それが老化の進行、果ては人生の最終極地、即ち死を意味する。
老化と死、どちらがより恐ろしいだろうか。
大抵の人は死を選ぶが、
笹目は化粧品販売の接客業をしており、誰よりも美意識に執着心を持っていた。
お客様に満足してもらうには化粧品の知識、メイクテクニックはもとより、自らの美しさに対する向上心が不可欠である。
よって自分が年齢を重ねるごとに鏡を見て、老いを実感することが彼女には恐怖であり、嫌悪の対象であった。
しかし、もうすぐ35歳を迎える笹目には化粧や整形手術などよりも確実で安全な、若返る方法があった。
それはメイクやファッションで外観だけを誤魔化すのではなく、身体の
その方法を知ったのは笹目が鏡の前で溜め息ばかり吐いていた
きっかけは同じ販売店で働く後輩からの噂を聞いたからだ。なんでもその少女に出会えると何歳か若返らせてもらえるらしい。
若さを欲する女性が流した都市伝説だろうと、笹目は話半分に聞いていた。
だが、そんな魔法を実体験した女性が同じ町に住んでいるという。
後輩の誘いもあって、笹目はその女性、
三森は町に住んでいるというよりは同じ町の病院に入院しており、極力面会は断っていた。
しかし、三森は笹目の容姿を見ると、目を見開き一つ質問をしてきた。あなたに娘さんはいるか、と。
笹目は結婚歴も出産歴もないことを告げると、三森はおかしなことを口にした。
私の出会った少女はあなたに似ていた、と。
三森は20代前半と見受けられるほど、確かに若かった。
しかし、一目で病人と分かるほどやつれて見えた。
三森は最後にその少女の名前を教えてくれた。少女の名前はユキというらしい。
その日から笹目はユキを探すが、一向に手掛かりは得られなかった。
ほどなくして、三森の逝去を知らされた。
少し交流もあった笹目が斎場に
彼女は斎場に場違いな白いワンピースを着ていたが、その肌はさらに白く、まるで雪のようだった。
笹目は彼女がユキであると確信し、
私を20歳まで若くして欲しい、と。
ユキという少女は無理よ、と断りながら妙なことを口走った。
みっちゃんは後数ヶ月分しか残ってなかったから、あなたを5歳分なら若返らせてあげるという。
笹目はもちろん承諾し、自宅で意識を失った。
起き上がった笹目の前にユキの姿はなかったが、真っ先に鏡を見た彼女は、自分の肌が確実に若返っていることを実感した。
マイナス5歳なのかは定かではないが、毎日毎時といっていいほど鏡を凝視してきた笹目には断言できる。これは30歳の自分だと——。
笹目は再び執念を燃やし、ユキの捜索を行った。
彼女はこの町を出ないようで、すぐに再開できた。
ユキを見た笹目は、前に見たユキも15歳ほどの少女だったが、さらに幼く感じた。
笹目はユキの意見も聞かず、今度こそ自分を20歳にして欲しいと
これにユキはひどく
なぜ女性は20歳という年齢に拘るのかユキにはよく分かっていた。
自分も以前は30代の目線から若さに囚われていたことがある。
しかし、ユキにはどうしても笹目を20歳にできない理由があった。
笹目はユキに、自分が20歳の頃の写真を見せてお願いすると、ユキに心境の変化が訪れた。
その写真の中には笹目とその母親が写っていたのだが、これがユキの決心を固めた。
ユキは相手を10歳若返らせると、自分も10歳若返るという呪いがかかっていた。
よって、現在10歳弱のユキが笹目を20歳にしてしまうと、ユキの存在自体が消えてしまう恐れがあった。
だが、笹目との深い関係が証明された今、ユキに迷いはなくなった。
15年前、ユキは若さの欲求ゆえに、自分と家族を捨てた。
成人した一人娘を残し、遺伝子工学の実験体となった。
実際に何が行われたのかユキは知らない。
以前の記憶は完全に失われ、生まれ変わっていた。
新しい人生過程で、ユキは若さを欲する人を見てきた。
その中の1人が少女に名前を与えたのだ。あなたは雪のように白い肌だから名前はユキね、と。
その女性も若さと名前をユキに与え、先日亡くなった。
ユキには若さを与える代わりに相手の寿命を対価として奪う力があった。
よってユキは死なない身体を手に入れていた。
遺伝子学者たちは不老の研究成果に歓喜しただろうが、ユキはなくしてはならない大切な存在を思い出した。
ユキは、残した一人娘である笹目を20歳まで若返らせて、若さへの執着に終止符を打った。
完
雪の肌 シバカズ @shibakazu63
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