05



翌日。

ネネの案内の元城の外に出る。そこにはネネとは別の、軽い戦闘装備を身につけたラミアと共に魔王が既に待っていた。

因みに蛇の下半身のを持つ女性系の魔族をラミアというらしい。一馬はここに来る途中でネネに教えられて初めて知った。

「遅かったな」

「下痢だよ、下痢」

「む……食が合わなかったか」

嘘だ。本当は吐いた。

どの食事も口に合わなかったわけではない。昨晩のスペアリブもどきは食べて僅か10分で胃が限界を訴えて便所へ全てリバースした。今朝出されたバカでかい目玉焼きもスープと共に飲み込んだものの、胃の収縮が治らず昨晩と同じように吐き戻した。

原因は十中八九ストレスだ。僅かに食中毒の可能性も頭によぎったが、城で出される食事の衛生管理が疎かであるとも考え難い。それに、幸いにも水は身体が拒否する事はなかった。

「今後はスープだけにしてくれ」

食べねば働けないのに、身体が食を受け付けない。今までそれなりのストレスに晒されてきたが、こんな事は生まれて一度もなかった。

自身の異常に動揺しつつも、少しでも早く帰る為に身体の異変と不安は隠し通すと一馬は決めた。

未だに食道を焼く胃酸に不快感を抱きつつ、固形物は控えてもらうようにネネに伝える。

頭を下げて城内へと戻っていくネネを見届けてから振り返る。すると魔王がじっと一馬を見下ろしていた。

「な、何……」

「今日は案内と紹介のみだが、無理はするな」

「してねーよ」

今日は早速、一馬が管理することとなるアンデッド地区『ワバラ』へ案内してもらえるそうだ。

もっと勉強してから案内されると思っていたが、どうやら叩き上げ方式で進行するらしい。

「では行くぞ」

「おお……3人だけで?」

「ナナと私がいれば十分だ」

魔王にナナと呼ばれたラミアがぺこりと頭を下げると、先導を始めた。魔王もほぼ同時に歩き始めたので、一馬も習うように着いていく。

「なあ、人間の俺が魔族の街中を歩いていいの?」

「杞憂である。特にアンデッド区域ではな。行けばわかる」


──アンデッド地区『ワバラ』前。

「あ、魔王様。お久ッス〜!後ろの人間がウワサのネクロマンサーさんッスか?」

「左様」

魔王が平然と話しかける相手に、一馬は面を食らった。

人骨が喋っている。チャラい口調で。

その初見のインパクトにより、色々あった疑問が一瞬で吹き飛んだ。

「自分、スケルトンのクリケットと言うモンです〜!ネクロマンサーさんのサポート係に任命されたんでガンガン!コキ使っちゃってくだせぇ!」

「あ、うん……」

カタカタ全身を震わせながら流暢に喋るクリケットに握手を求められ、つい流れで握り返してしまった。骨ってこんなに細いんだ、なんてどうでもいいことが頭を過ぎる。

アザッス!と張り切るクリケットの横で、魔王とナナが二言程会話を交わした後、ナナはその場を後にしてしまった。

「ナナは?」

「別の仕事を任せている。ここからはクリケットと共にアンデッド地区の案内だ」

「よろしくオナシャス!」

宜しくしてもらうのはこちらの方だと思いつつ、適当に頷いておく。

クリケットが意気揚々と、檻のような門を開く。その先は如何にも墓地……というわけでもなかった。

クリケットのようなガイコツや西洋鎧、人形などが歌を歌ったり、踊ったり。片隅ではボードゲームに勤しんでいる。おどろおどろしい土地と腐った住民を予想していたので、意外な程明るい雰囲気に一馬は何度目かの驚きを得た。

「すげー活気……」

「クリケット達アンデッドの意向だ。奥へ向かえば墓地もある」

「死霊は陰気を引き寄せ易いッスからね〜。故入り口だけでも元気に見せて、他の地区の人達をで迎えたいッスから」

ここで今更ながら、ずっと流していた疑問を一馬は尋ねることにした。

「そもそも、アンデッドって何?」

「あれー!?そこから!!」

外れそうな程アゴをパカパカ動かすクリケットを眺めながら、隣にいた魔王が解説してくれた。

「アンデッドとは、昨日も話した通り一度死した魔族が新たな器に入り、2度目の生を得た者の総称だ。器とは鎧、人形、死体など様々だが……特に、人間の死体と魔族の魂は結びつき易い」

「人間の死体って……クリケットみたいな?」

「その通りッス!自分、人間の白骨死体に乗り移った元ウェアウルフッス!!」

……ウェアウルフが何かはわからないが、何となくクリケットが完成した過程は想像がついた。

「その身体って食事とかできんの?」

「無理ッスね〜」

「器は生命体でないことが絶対条件。生命でない肉体は食を受け付けず、外部からのエネルギー供給は不可能である」

「え……エネルギー供給ができないって、生きていけんの?」


「そのうち死ぬに決まってるじゃないッスか〜!いや、死ぬってか魂が消滅ッスね」


自分の命の消滅をあっけらかんと答えたクリケットに一馬はドン引きした。一度死んだらどうでも良くなるのだろうか?

「怖くねぇの?」

「自分はそんなにッスね〜。終わったゲームのボーナスタイム感覚ッス。あ、勿論死にたくないってヤツもいるッスよ」

「でも命は命だろ」

「そうだ。その僅かな命を維持させるのがネクロマンサーだ」

突然自分の役割が回ってきて、喉がヒクリと震えた。

「ネクロマンスとはいわば魂と生命力を操る者。他者から生命力を吸い上げ、その生命力をアンデッドの魂に直接与えられる、唯一の魔法使いだ」

「管理だの支配だのとは言うけれど、一番近い表現は医者ッスかね〜。実際、税収とかややこし過ぎて専門職が別でやってますし」

「……そんな重要なヤツが、10年不在?」

「そうなんスよ〜!おかげでこの地区、人の入れ替わりが早いこと早いこと。結構古参の自分ですら、まだここ来て3ヶ月ッスからね」

つまり、一馬の役割はアンデッド達の生命線なわけだ。思っていたより重要な役割の予感に、一馬の胃がまた締まった気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る