03
一目で魔王と分かる体躯と威圧感に、まだ随分距離があるにも関わらず一馬は慄いた。
しかし、そんなことなどお構いなしにテラは一馬の腕を掴み、玉座の間の中央に引き摺り出す。
チラリと玉座を見上げると、赤い瞳が一馬を見下ろしていた。
「貴殿がネクロマンサーか」
「…………あ?」
聞き覚えのない単語に、つい不躾な返答になってしまった。
「あ!いえ、その……ネクロなんたらって何でしょう……か?」
魔王の眉間に皺が寄ってしまったのを見て、慌てて取り繕う。魔王は暫く一馬を見下ろした後、視線をテラに移した。
「……話と違うが?」
「違わないでーす。才能と習熟度、知識は一致しない。コレは間違いなくネクロマンサーの素質を持ってるけど、それをコントロールする為の知識と習熟が0なだけ」
一馬を置いてけぼりにして、魔王とバニーが親しい友人の様に会話をしている。頭がおかしくなりそうなその光景を喋っている方向に視線を向けながら聞いていたら、魔王と目が合った。
「……転生者よ、名を名乗れ」
「…………一馬」
「カズマ、貴様には死霊を操る魔法『ネクロマンス』の才能がある」
「えぇ……」
唐突に魔王に名を聞かれたかと思えば、普通に気分の悪いことを告げられた。
なんだ、死霊を操る魔法って。
生憎だが、一馬にはそんなオカルト趣味はない。才能があると言われても、正直ピンとこない。
「その才を我に託し、アンデッド地区『ワバラ』を治めよ」
魔王の言葉の意味を処理するのに、10秒はかかった。
おさめる……治める?所謂、統治?一般市民歴26年のこの井上一馬が?
「……なんで?」
やっとの思いで絞り出したのは、肯定でも否定でもなく疑問だった。
異世界転生したことも、誘拐されたことも、ネクロなんたらの才能があることも、魔族の土地を統治して欲しい旨も、何もかもが繋がっていない。理論が通っていないから、納得もできない。
魔王が目を細めた。ようやく物言いが不敬であることに気がついたが、後の祭りだ。
分かりやすく動揺する一馬を見下ろしながら、魔王は口を開いた。
「……テラ、説明は?」
「してない」
ケロリと答えたテラに、魔王は諦めた様に目を伏せた。この2人の関係性が、一馬にはイマイチ見通せない。
「……この国には、アンデッドと呼ばれる死後に別の肉体に乗り移り第二の人生を送る種族がいる」
魔王はまるで独り言のように語り始めた。
「しかし、アンデッドは死者ゆえに肉体維持すら困難な者が殆どである。それを唯一制御し、安定させることができる魔法がネクロマンス……それを扱える魔法使いを、ネクロマンサーと呼ぶ」
「……その言い方なら、別に俺じゃなくてもいいんでは?」
「ネクロマンスを扱える魔族は産まれにくい。先代のネクロマンサーの死後、10年は確認できていない。そんな折、この国一の予言者である妖魔が、とある予言を詠んだ」
「人間が、ネクロマンサーを異世界から召喚する」
「そ、れだけを根拠に……俺をここに?」
ただの占いを信じて、本当に才能があるかも分からない一馬を誘拐したというのか。
一馬が初見で感じた魔王の威厳にヒビが入る。
この魔王、馬鹿じゃないか?
「妖魔クラウディアの予言は、我々にとって十分な原動理由になる」
「こんなの戦争になるぞ!!」
「心配は無用。貴様を誘拐したそこの女は月の女神……と称される者。故に、人間でも魔族でもない、いわば天災……というのが一般の認識である」
「あぁ!?」
視線を横に向ければ、無言でダブルピースをしているふざけた女。これが女神?この世界の住人は頭がおかしい。
「災害が人1人攫ったとて、戦争にはならんよ」
「いや、思いっきり魔王に手を貸してんじゃん」
「そこは私の匙加減だよベイベー」
「自分勝手すぎんだろ!」
「だって神ですものホホホ」
相変わらず無言ダブルピースのまま笑う女のことはこの際スルーだ。
一馬は一応会話が通じる魔王に改めて向き直る。
「魔王様、悪いが俺はそのネクロマンス?なんて使えないぞ。才能だって……」
「素質はある。暫く視れば分かった」
「見るって……何を」
何かを見透かすような赤い瞳が一馬を射抜く。それだけで、張り詰めた緊迫感から一馬の身体は縫い付けられたように重くなる。
すると、それまで玉座に腰掛けていた魔王が立ち上がった。
艶の良い黒髪を靡かせながら、一歩ずつ一馬に近づく。一馬は魔王の一挙一動を、ただ見つめる事しかできない。
そしてついに、魔王が一馬の目の前に立った。
長身の一馬より頭ひとつ分高い視点から、魔王が再び口を開いた。
「知識と技術は私が施す。人として生きていく上での苦労はさせぬと約束しよう。それ以外に不満があるか」
「不満……というか、俺じゃなくても」
「貴様しかおらぬのだ」
なら余計に困る。
何がどうして、来たばかりの異世界の、自分を連れ去った国で土地の管理なんて責任を負わなければいけないのか。
──もう重荷なんて、御免なのに。
「言っておくけど、受けないと野垂れ死にまっしぐらだよ」
「は?」
テラの横槍……もとい、助言に一馬は瞬いた。
「キミを召喚した人間は遥か彼方。協力してくれないなら魔族にとってキミは厄介者。国の外に追い出されてドラゴンに食べられるのが目に見えるねぇ〜」
ねぇーなどと呑気だが、冗談ではない。
一馬は苦虫でも噛んだかの様に顔を歪ませ、言葉を絞り出した。
「こんなん脅しじゃねぇか……!」
「時にはどんな相手でも競合手段を用いる必要がある。それが、国を治めるということだ」
魔王このやろう、と罵倒したい衝動をグッと堪える。
結局、一馬は魔王の要望に応え、土地の管理という責任を背負うしかないのであった。
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