厨二病すぎたらいつの間にか世界の悪役と勘違いされていました。

夜嵐 海莱

第1話:我こそが真なる再冠者である。

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 厨二病とは、人生の最幸である。何故ならそれはその人物の生を楽園へと誘うからだ。

 

 


 世間は厨二病を恥ずかしいもの、イタいもの、可哀想なもの、仕方ないものとして認識しがちであるが、よく考えて欲しい。本当にそれらとして簡単に決めてしまって良いのだろうか。否である。厨二病とはある種世界一幸せな病気と言えよう。思い出せ、其方らよ。厨二病を発症している時は幸福ではなかっただろうか、充実してはいなかっただろうか。安心───出来たのではないだろうか。答えは確実に是であろう。だが其方らはその感覚を時間と共に忘れ、段々と忌むべき記憶として定着させてしまっている。それは愚かな退化である。進化などしていない、大人になどなってはいない。幸福な記憶であれ、後悔した記憶であれ、それを忘れ去ろうとするのはあまりに愚鈍である。人間への冒涜だ、進化への冒涜だ。だから僕は決して忘れない。厨二病を。


 だが、とある日最高ビルの屋上でいつも通り厨二病プレイをしていたら、足を滑らせてしまった。あまりに愚か。我が人生の終幕がまさかこのような展開だとは思いもしなかった。だが死ぬ寸前でさえ僕は忘れない。



 「新たなる幕開けに期待し、此度は天界・冥界へしばしの旅路を歩むとしよう!!!さらばだ、世界よ。」



 そして死んだ。───正直怖かった。普通に泣き鼻水を吹き出しながら落ちてたと思う。僕は決して狂気者ではないし、道化でもない。その様な人物が死を認識して平常でいられるはずがないのだ。


 しかし、遺言として遺した僕の台詞は間違っていなかった。何せ────。



 「ぅっ……えっ、んぎゃっ……んおぎゃあああああん!!!」



 異世界に、転生していたのだから。



 

★☆★☆


 


 ここに転生してから三の年が経ったころ、ようやく厨二病を再び再臨させる時が来た。本当はもっと早くに臨界させたかったのだが、時期尚早であると判断して温存しておいた。いよいよ、時が来た。──────────今だ。



 「我は再冠せし降臨者。───いや、再冠者である。さぁ、異地よ。僕を存分に崇め、仰ぎ見るが良い。」



 決まった。完璧な発声だ。だが、なぜだろう。部屋の照明が明滅し、窓ガラスがガタガタと悲鳴を上げているのは。おそらく僕の覇気に世界が呼応しているのだ。おそらく。


 その瞬間であった。僕の台詞を見ていた両親は震え上がっていた。母は口を抑え嗚咽を漏らし、父は卒倒しかけていた。その反応も無理はない。自分の息子がまさかの厨二病であれば確かに悲しいし、後悔するであろう。少しだけ、申し訳ない気持ちが─────────。



 「再冠者……魔王よ……魔王がこの子の魂を…………。」


 「終わりだ……この子はもう……乗っ取られてしまったのだ…………。おぉ神よ。何故我らにこの様な仕打ちを………。!」



 沸く前に疑問が僕を支配した。どうして僕が魔王なのだろうか。ただ厨二病を観せただけだと言うのに。


 

 「これ……夢だわ!そう!夢よ!!カレアがそんな筈!」


 

 僕の肩を強く抱きしめ、酷く揺さぶる。だがこれは夢などではない。存在する現実だ。



 「現実逃避か、成る程愚かだな。生きているこの現実を否定するとは一体何事だ。それはこの世への冒涜だ。」


 

 親を叱った。現実逃避は駄目だ。それは今までの自分を否定する事になる。記憶の忘却の次に愚かな行為に他ならない。だから叱った。すると、次は父が。



 「……育てる事はもう……でも殺すことも……あの森に、置いてこよう……。」


 「えぇ……もうそうするしか……ないのね。もうこの子は、カレアではないんだから……。」


 「???」



 状況が上手く呑み込まないまま、父母に鬱蒼とし、青臭く湿気った森に連れられ、一言。



 「魔王は、死んで……。」


 「お前はもう、俺たちの子ではない。」



 去っていってしまった。理由は分からない。だがこれは不味い。今すぐにあの村へ帰らなければ野垂れ死ぬのみだ。泥の様な土に足を盗られながらも帰ろうとするが、その距離は、あまりに遠かった。そして、絶望へ叩き落とす淫らな声色が聞こえた。



 「人の、子?あらあらあら、誰が置いていったよかしら……でも幸運ね♪じゃあその脳みそ、いただきまーす♡」



 殺される。間違いなくそう感じた。だがこんなところで死ぬ訳にはいかない。せっかくの転生がこの様な形で幕引くなど。だから足掻く。人故に、足掻くのだ。



 「ほっ、ほほう?ぼぼっぼ、ぼぼ僕を襲うか卑しい獣よ。僕はこの世に再冠せし者であるぞ!」



 恐怖で声が震えてしまった。なんて無様だ。

 だが、目の前の怪物はなぜか凍り付いている。


 

 「あなた……今なんて?」


 「ぼっ僕は……再冠者である。」



 するとそいつは眉を下げ、顔を青くし、僕よりずっと絶望した表情でこう言い放った。



 「たっ、たたた、大変申し訳ありませんでした!!!!まさか魔王様だとはいざ知らず!どうか……どうかこの私めに如何様の罰をお与えください!!!!」



 そいつは額を地に強く埋め、その衝撃で顔中に土が飛び散り、地面がひび割れた。

 


 「えぇ……???」



 

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