第5話 侍女になるにあたってのあれこれ 2

 そうしてメイドさんが連れて来たのは……皇太后、レゼク、それに皇太后の侍女らしい、私と同じ年ぐらいの金髪の女性。


 レゼクとだけのざっくばらんな話かと思っていた私は、ちょっと居住まいを正した。

 いや、これは立ち上がるべきだろうか。

 皇太后までいるんだし。

 病み上がりだからと、メイドからソファに座るように言われ、ひざ掛けもしているから、ちょっと立ち上がるのは不格好だけど。


 私が腰を上げかけたところで、レゼクが「そのまま座っているように」と言う。

 直近の記憶より、彼も礼儀正しい話し方になっている。

 祖母である皇太后の前では、猫をかぶっているのかな……。

 とりあえず言われた通り、座ったままにする。


 そうしてレゼクと皇太后が、部屋に用意されたソファに座る。

 やはり金髪の女性は侍女だったようで、皇太后の後ろに立って控えていた。

 メイドが退室したところで、話が始まる。


「このまま長く話しても大丈夫か?」


 レゼクの言葉に、私はうなずく。

 

「まず、君の状況について説明しよう。君は、伯爵家では亡くなったことになっている。皇族をだました件について、大っぴらに許してしまうと問題があるのと、君の痕跡をたどれないようにするためだ」


 皇族の権威を守るためにも、簡単に許される前例をつくるわけにはいかなかったのだろう。


「以前の君は、罪人として処罰し、亡くなったことにする。そして以後は、クラウス伯爵家が養女とした親族の娘、リリ・クラウスという名前で生きてもらいたい。……聞けば、伯爵令嬢の代わりに他の貴族との交流の場にもいたそうだし、それを利用させてもらうことにした」


「あ……。顔見知りと会うことを考えて、ですか」


 お嬢様の代わりに何度かお茶会に出たせいで、同じ年ごろの令嬢達の中には私の顔を『伯爵令嬢だ』と覚えている人もいるだろう。

 それを逆手にとって、本物の伯爵令嬢に仕立て上げるのだろう。

 なにせ知名度がいくらかあるので、その人達が私の身分を保証してくれるわけで。

 帝宮で知り合いとすれ違っても、むしろ私にはプラスに作用する。


「その関係で、伯爵が君の養父になる。資金も皇家からの年金の他に伯爵家からも支度金と、定期的な資金が君の手元に入るだろう」


 それが伯爵家への罰、ということかな。

 娘の罪をなかったことにできるのなら、と平民の私を娘にすることを了承したのかもしれない。


 にしても、侍女になる話がどんどこ進むなぁ。

 私がいいとも悪いとも言っていないうちに。

 まぁ、私もそれでいいと思っているので、口は挟まない。


「さてここからが、君のこれからの仕事についての話になる」


「皇太后陛下の侍女、なのですよね?」


 そう言うと、レゼクがうなずいた。


「基本的には皇太后様の侍女ということになるが……」


 ただ? なにか条件でもついてるの?

 首をかしげそうになる私に、レゼクは言った。


「君が剣を使えると聞いたのでね。隠れた護衛として、皇太后様よりも俺に随伴してもらう時間を多くとってもらいたい」


「皇太后陛下の侍女なのに、皇子殿下に随伴しても……大丈夫なのですか?」


 元が貴族ではないうえ、日本人意識ばりばりの私だから、帝宮の慣習なんてさっぱりわからない。

 そんなことしても大丈夫なの?


「わたくしが皇子に侍女を貸すことは、よくありますのよ」


 おっとりした様子で話すのは、それまで黙って見守っていた皇太后だった。


「レゼクは男性ですから、普通は女性の使用人は伴わないものです。けれど、女性が采配するべき事柄などもありますからね。そういう時は、こちらのノエリアが手伝っておりましたの。けれど、身を守れない令嬢が怪我をしないか気にしていたのです」


「剣を使える私なら、殿下も守れるし自分の身も守れるからと……?」


「そうね」


 皇太后がうなずく。

 なるほど、生粋の令嬢であるノエリア嬢などが、皇子の側にいて危険な状態に陥ったことがあったのだろう。


「でもそれなら、皇子殿下の侍女ということにした方がよいのでは」


 ふと疑問に思って口にしてしまう。

 毎回私を借りるのは、面倒そうだと思ったのだ。

 だけどレゼクが「不自然すぎる」と言う。


「いくら君が剣を使えるとはいっても、最初から警戒されたくはないだろう?」


 あれ。

 皇子の護衛って、そんなに危険なの?

 ていうか、聖者の力をほしがるんだから、相当強そうなこの人が危機を覚えるくらいの状況かもしれないってことで。


(侍女になるしかないけど、気をつけないとヤバイ?)


 レゼクの側にいて、のんびり観察しようとか、考えが甘かったかもしれない……。

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