第3話 ゲーム設定と自分の立ち位置

 ふっと目を覚まし、私は自分が眠っていたことに気づく。


「疲れ過ぎたのかな……」


 今までの人生で、人と話している間に眠るなんて、体力がない時か、麻酔を使う時ぐらいだった。

 この体も、メイドとして働いて疲れているうえに、罪人になるか一文無しで逃げるかの二択をつきつけられて、ストレスが限界だったのかな?


 ふっとため息をついた私は、誰も側にいないみたいだし、のんびりと今まで起こったことを思い返す。


「何がどうなって、こんなことになったんだろ……」


 私が『リリ』という人物になっているのは間違いない。

 そして、直近で遊んでいたゲームと同じ世界観や人物がいる場所にいることも。

 考えてみれば服装とか、ゲームで見たようなテイストだったし。

 兵士の格好も、敵として出て来たそのまんまだった。


 こうなった理由はわからない。

 そこまで頭脳明晰じゃなかった私が考えても限界があるし、もしかすると人間は死ぬとゲーム世界で生まれ変わって、ある日突然記憶を思い出すものなのかもしれない。


「記憶もちゃんと思い出せるし、憑依みたいなのとは違うと思う……」


 むしろ『リリ』の記憶を思い出そうとすればするほど、そちらに記憶が傾いて、日本で生きて病死した方の記憶が薄れていきそうな感覚がある。

 まるで、あちらの方が夢だったみたいに。


「これはヤバい」


 私は起き上がって、周囲に何か書く物がないか探した。

 すると書き物机みたいな家具の引き出しに、鉛筆にしては少し太い筆記用具と、インクと、万年筆みたいな物。さらには生成り色をした紙が複数枚ある。


 覚えているうちにと、私はゲームのことを書き出す。

 忘れてしまってからでは遅いと思ったのだ。

 そうすると、なんだか記憶が整理されて、少し落ち着いた。


 よし、私の居場所がゲームの中になったことはもう置いといて、肝心なことを考えよう。

 

「人生がせっかく続いてくれたのに、あっさり死ぬのは嫌だし、どうしたら長生きできるか、が大事よね」


 今の所、この体は病気になっていなさそう。

 大変すばらしい。

 皇族をだまして殺されかけたけど、それはなんとか許してくれそう。

 これも良かった。


「だけど、あの皇子の近くにいることは……不安要素かなぁ」


 ランヴェール帝国の皇子レゼク。

 そもそもこのランヴェール帝国が、ゲーム主人公達の敵でもある。

 ランヴェール帝国に侵略されそうになっているヴァール王国。

 その王子が自分の臣下を強化し、聖女や騎士や他国の貴族や戦士を仲間にしつつ、他国からの同盟をとりつけたりして国を守るという筋書きだった。


 一個ミッションを達成すると、ランヴェール帝国は他国との紛争なんかが起きて、侵略の日が延期されるシステムだった。

 それが目新しくて、私はゲームをしようと思ったわけなんだけど。


 エンディングがいくつか用意されているのは知っていた。

 ゲーム中のミッションを一個ずつクリアしていって……最後の国との同盟を結んだとたん、急にランヴェール帝国が滅亡するエンディングになって呆然。

 そして自国の皇子レゼクによって皇帝は殺され、帝国は崩壊したというナレーションが流れるのだ。


 急激なゲームのエンドに、戦争に勝つよりもすっきりしない終わり方だった。

 いや、リアルだったらその方がいいんだけど。


 でもそれなりに長時間プレイをしたあげくのそれは、かなりモヤモヤする。

 だからこそ、別のエンディングを見ようと思ったのだ。


「でも一回目の完走をした直後に容体悪化で、死んじゃったのよね……」


 病状の悪化が憎らしい。

 でも今となっては、そこを愚痴っても仕方ない。


「それより、マジで私、聖女なの?」


 おかしな現象は、たしかに発生した。

 信じがたいんだけど……あの現象は聖女の能力にそっくりではある。


 謎の音がして、敵の動きというか考えを操る、というあれだ。


 ゲームの説明だと、聖者だけが『世界の果ての鐘』(ピアノにしか聞こえないけど)を祈りで動かすことができ、スキルの発動音と共に、騎士の強化が行われたり、敵の動きを止めてしまったりできた。

 あれとそっくり同じだったのだ。


 でも私が聖女だとすると、問題があるんだけど……。


「ランヴェール帝国って、聖女を他国侵略に使おうとしてた国だし、むしろ聖女に嫌な印象持ってそうなんだよね」


 ゲームでは、本編の前にもランヴェール帝国はヴァール王国を侵略して、聖女によって撃退されているらしく。

 めっちゃ聖女のこと恨んでそうなんだけど?


 ただ、ゲームでレゼク皇子自身は特に聖女に恨みを感じてる描写はなかった。

 ミッションクリアの度に、軍を率いているレゼクが、砦かなんかから見下ろしている姿が映るだけで。

 しかもその後、自国を滅ぼしてやるぜぇ、みたいな感じで反乱を起こしたみたいだし。


「それにレゼクは協力してほしい、って言ってたものね」


 私が聖女の力を持っているとわかって、レゼクはそう願ったのだ。

 とはいえ、どうして私が聖女の力を持っているんだろう。

 力は血筋によるもの、って設定だったはずだけど……。


「リリは、ランヴェール帝国の人なのに……あ」


 母親が、流浪の末に父と結婚した変わり種だった。

 女性ながらに剣を振り回すのが得意で、流浪の剣士みたいなことをしたあげく、リリの父と意気投合して結婚。

 そんなわけで、娘のリリまで『女も剣を扱えるようになった方がいいから!』と鍛えた張本人だった。

 出身が、確かヴァール王国……。


「ヴァール王国は聖女が前からいたらしいし、その血縁かな? つじつまは合う、か」


 でもリリは、そんなこと知らなかった。

 母親がその話をしなかった理由は、想像できる。

 ランヴェール帝国で、元敵国ヴァールの話……しかも聖女の話なんてしにくかったんじゃないかな?


「話さないのは当然かも。聖女の一族って昔はひっそりと隠れてたらしいけど、ランヴェールの侵略に聖女の血族が積極的に協力してるのには理由があるんだよね。聖女の力を他国侵略に使おうと、ランヴェール帝国が拉致をしようとしてたから、ってことだったし」


 自分達の身を守るためにも、ヴァール王国に貢献したのだ。


 リリに聖女の能力がもっと早くに発現していたら、今の状況も変わっていたはずだ。

 母親が、何が何でも私をヴァール王国に私を連れて行っただろうから。


「もう一つ、驚いたわよね。レゼク皇子が騎士の血筋だなんて」


 騎士は聖女を守る役目を持ち、聖女の力に感応して、常人とは思えない力を発揮できる人だ。

 元は『聖女の騎士』と呼ばれていた。

 けれど、通称としてただ『騎士』と言うようになった、とゲームの中で説明されていた。


 でもランヴェール帝国の、しかも皇族のレゼクが騎士?

 騎士も聖者も、その血で力を受け継ぐので、ひょっこりと関係のない血筋に出ることはありえない。


「あ、ゲーム内でも、二人ぐらい騎士の能力持ちをヴァール王国以外で発見してたし、仲間にできたし。騎士の血筋ってけっこう散らばってるのかも……? だったら、たまたま皇妃になった誰かが騎士の血を引いていたってことも、あるかもしれない」


 今現在わかるわけがないので、そういうことにしておく。


「とにかく、騎士の血を引くレゼク皇子は、私を守らずにはいられなくなるわけだから……安全? もしかしてこれ、守られながら『どうしてレゼクがランヴェール帝国を滅ぼしたのか』わかるって状況になったんじゃない?」


 そう考えると、ワクワクしてしまう。

 だって死ぬ直前の悔いは、それだけだったから。


 ゲームの題材になるんだし、戦闘とかはあるだろうけど。

 リリは剣で父親に勝てるぐらいには強かったから、ある程度は大丈夫そう。

 なにより皇族をだました罪の件も、侍女のことを受け入れれば解決される。


「一石二鳥?」


 それに本当に危険な状況になったら、早々にレゼクから逃げればいい。

 聖者の力なら、それができる。


 よし、と私が決意したところで、扉がノックされた。

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