MONSTA

@Try_Shosetu

第1話 憧憬

この世界には、いつからか【怪物】という存在が蔓延っていた。


それは、もはや災害と形容してもおかしくないもの。”死の霧“という毒性気体を撒き散らし、圧倒的な力と異能で、社会を蹂躙するもの。姿形はさまざまで、形容できないような形をするものも多かった。


だが、人間社会はそれに対して黙っているわけではなかった。


対怪物組織「レジスタ」

政府公認のもと、全国に支部を持ち、対怪物の最前線を走る組織だ。

そこは、日常を守る事に、命を懸ける人達が集まる場所。


怪物は、もはや一般化した脅威となった。

だから、それに対抗するレジスタもまた、社会の一部として受け入れられていった。


支部や本部の場所は徹底的に隠蔽されている。

が、隊員の姿は、メディアや現場で目にする事もある。


だから、あの制服に、誰もが一度は憧れる。

その背中を追いかけたいと、夢を見る。

_______ほんの一瞬だけ。


けれど、実際にそれをしようと思う人は多くても、99%の人はできないのが現実。


なぜなら、レジスタの門は、残りの1%の人々___

“命”を懸ける覚悟と、それに見合う“強さ”を持つ人にしか開かれない。


つまり、“一般人”には到底無理な話ということだ。





僕には、歳の離れた兄がいる。


容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。

何をしても優秀で、更に周りから好かれる人格者だった。


だから、兄が“レジスタ”に入隊できた時も、あまり驚かなかった。


お兄ちゃんなら、レジスタでも最強になるんじゃないかな。とか、

僕の兄はすごいな。とか。


そう、楽観的に考えていた。


兄が、片足を無くして家に帰ってくるまでは。



「ごめんな。兄ちゃん、任務でヘマしちゃって。」

「......。」


帰宅した直後から、僕は兄のそばを一時も離れなかった。

兄は、少し困ったように笑った。


「兄ちゃん、もうレジスタ戻れないからさ。いっぱい遊んであげられるよ。」


嬉しそうな顔をして、兄は僕の頭を撫でる。


でも、その瞳からは寂しさと悔しさが垣間見えた。


僕はそれを、10年経った今でもずっと覚えている。





僕は、レジスタに憧れている。

けれど、拒絶もしている。


矛盾だと思われるだろうけど、それも仕方ない。


幼い頃からの憧れの場所であり、大好きな兄が進む事を選んだ道。


でも、その大好きな兄の輝かしい人生を閉ざした場所でもある。


正確には、そのレジスタが討伐している“怪物”を恨んでいる。


が、レジスタを恨んでいるのも嘘じゃない。


兄はどんな状況で怪物と戦わされたんだ。

なんで優秀な兄が、こんな怪我をする羽目になったんだ。

兄が___兄が_____。


考え出せばキリがなくなってしまう。

もちろん、悪いのは”怪物“だ。でも、レジスタにも原因の一つや二つくらいきっとあるだろう?

それを、絶対に突き止めてやると思った。



その夜。


「僕も、レジスタに入る。」


と、兄のあの瞳を見た日の夕食。

家族団欒の場で、高らかにそう宣言した。


両親には、強く反対された。


それもそう。兄が片足を無くした組織なんだ。

その兄より不出来な弟を行かせられるわけがない。

たしか、その当時僕はまだ小学一年生。

その歳での入隊なんて絶対に無理である。


ただ、兄は僕の”夢“を否定しなかった。


「なんで、入ろうと思ったんだ?」


兄は、いつもの優しい顔でこちらを見ていた。


「......ずっと入りたいって、思ってた。」

「そうか。」

「でも、でも。兄ちゃんが怪我して帰って来た。」

「......そうだな。」

「だから、すごく迷ったんだ。兄ちゃんが怪我するようなところに、僕が入れるのかって。」


兄は静かに、僕の言葉を待っている。


「でも、だから、僕が入らなきゃと思った。」

「兄ちゃんは、”みんなを守るため“にレジスタに入ったって言ってたから。兄ちゃんの夢、なくなっちゃう。」


「僕が、兄ちゃんの夢を叶えてあげたい。」


強く、そう言い切る。

兄の瞳を見据えて。


「______ダメ、って言いたいけどなあ。」


兄は、一度目を伏せてから、困ったような顔をこちらに向けた。


「兄ちゃんの夢、覚えててくれたんだな。嬉しいよ。そして、それをお前が叶えようとしてくれるのも、めちゃくちゃ嬉しい。」

「でも、本音を言うと、あそこに行ってほしくない。」


「_______。」


大きく息をのむ。


「......でも、兄ちゃん知ってるんだ。お前は、一回強く決心したら、絶対にやり抜くって。」

「兄ちゃんはお前が大好きだからさ。行ってほしくないけど、夢を叶えて欲しいとも思うんだ。」

「つまりだな_____兄ちゃんが色々と教えてあげるから、入隊は、もっと先にしよう。それなら、良いよって言える。」


「____!」


僕は、兄に反射的に抱きついた。


その人物は、”戦士“でも“英雄”でもなく、紛れもない“僕の兄”だった。





そして10年後。僕は試験会場に立っていた。

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