王宮での生活
クラスのみんなは、呀狼の討伐でつかれてるはずなんだけどな……。
僕がそう思ったのも無理はない。
なんせ、みんなが修学旅行並みに、はしゃいでいたからだ。
だが、僕の思う枕投げとは一味違った。ここは異世界――高速で投げられた枕が、魔法のように空中で加速し、その勢いのまま投げ返されている。速さは脅威の200km/h、メジャーリーガーも驚く速度だ。
そんなとき、僕の頭に枕が直撃した。
だれだよ、そこそこ痛かったぞ。
周囲を見渡すと、こちらを見て笑う男子の集団がいた。
このやろ〜。許さん!
結局、僕も参加してしまい、
そのまま、夜が明けていった――
――あー、頭痛い。
そう感じてしまうのも無理はない。
野外演習での見張りで一徹。昨日の枕投げで二徹目に入った方だ。
明日はちゃんと寝ないとな。
なんせ明日は、Bランク初討伐ということで、“Bランク討伐功労表彰宴”が急遽催されたからだ。
これは、国王が催したものなので、各国からも参加者がいるそうだ。
そのため、私達も正装に着替えないといけないそうだ。
神山、は『私達の正装は、学校の制服だよ』と教えてくれたが、
僕の制服は、翼を出した際に破けてしまって、着ることができない。
そのことで悩んでいたら、声が漏れていたのか救世主が現れた。
「私、制服2つ持ってるから、一つ貸そうか?」
そう言ってくれる人が現れた。
だが一つ問題があった。その人が女性だということだ。
今の姿的には問題ないと思う。
だが、やはり前世が男ということもあって抵抗がある。
それに加えて、その服が人の借り物というのも僕にとってはハードルが高い。
でも、他に予備の服を持っている人はいなかった。
仕方ない。これを着ていくか......。
――明日に備えて、眠る際、僕はネグリジェに着替えていた。
いや、これは僕の本心ではない。でも...
『そのような目の荒い服で寝られたらシーツが傷つく』
と、意地悪大臣に言われてしまったからだ。
ちなみに、このネグリジェも、嫌味を言われた際に渡されたものだ。
...なんで、パジャマ。しかも男が持っていたんだよ。
まあ、そんなこんなで着替えることになった。
正直、いつもの服が良かったんだけど、
あれはだめって言われたし、
メイド服で寝るわけにはいかないから、一応親切ではあるのかな?
自室の鏡で見たら、
白で統一された無地のネグリジェが白い肌を際立たせて、
...不服にも似合っていた。
解せぬ。 ――そう思いながらベッドに潜る。
その時、コン、コン。とドアがノックされた。
こんな深夜に誰だろう?くじになったから寝たいんだけど。
そう思いながら扉を開けると...
「あ、イリムさん。今から女子だけで、ちょっとしたパーティーをしようってなったんですけど、イリムさんも来ます?」
そう問われた。
えっ。どういうこと。
僕が女子会に誘われた?
あまりの衝撃で思考が停止する。
そのことを心配されたのか、
「大丈夫ですか?」
と聞かれてしまった。
「あ、はい。大丈夫です。ちょっとびっくりしてただけです。」
「そうですよね......急にお誘いをしたらびっくりしますよね。」
彼女は期待を込めて再度聞いた。
「それで、イリムさんは来ますか?」
「はい、行かせてもらいます。」
このときの僕は、完全にパニックだった。
だからこそ、半ば反射で――そう答えてしまったのだ。
「……じゃあ、行きましょう」
そう言って、彼女は僕の手を取った。
え、ちょっと待って。
声に出す前に、身体が前に引かれる。
気づけば、廊下を歩いていた。
「無理しなくて大丈夫ですよ、眠かったら、途中で戻ってもいいですから」
そう言われて、余計に何も言えなくなる。
……優しすぎる。
年上の余裕、というやつだろうか。
僕はただ、されるがままだ。
廊下は静かで、
足音だけがやけに響いていた。
「……あの」
ようやく声を出そうとしたときには、
もう目的の部屋の前だった。
「ここです」
扉が開く。
中では、数人の女子が談笑していた。
僕の姿に気づくと、
一瞬だけ、空気が止まる。
そして、
「あ、イリムちゃんだ」
「来てくれたんだ」
その一言で、場の空気が一気に柔らいだ。
「ほら、座って」
「端でいい?」
そう言われて、
僕は自然と、空いていた場所に座らされる。
……完全に保護対象だ。
テーブルにはお菓子と、湯気の立つ飲み物。
誰かが、黙ってカップを僕の前に置いてくれた。
「ありがとうございます……」
そう言うと、
「どういたしまして」と笑われた。
……なんだろう。
居心地が、悪くない。
まだ頭は少し混乱しているけれど、
ここにいてもいい気がしてきた。
そんなふうに思ってしまった時点で、
たぶん、もう手遅れだった。
――あれから二時間ほどたったかな。
そろそろ、眠くなってきた。
いくら人ではないとはいえ、
三徹目に入るのは身体的にも精神的にもしんどい。
そのため、軽く挨拶してから僕はその場から離れた。
――その後の女子部屋では。
「……寝るの、早いね」
最初にそう言ったのは、
さっきまでお菓子を配っていた子だった。
「二徹って言ってたし」
「むしろ、あれでも無理してたんじゃない?」
「それな……」
誰かがため息をつく。
「小さいし」
「強いけど……」
言葉が、続かなかった。
「強いから、大丈夫って思っちゃいそうになるよね」
そう言ったのは、イリムに服を貸してくれた人だった。
「でも、あの子、無理って、あんまり言わないタイプだと思う」
「うん……」
「言わないっていうか」
「言えない、かな」
しばらく、沈黙。
「……ねえ」
誰かが、少し声を落として言った。
「イリムって守られる側でいるの、慣れてないよね」
「分かる。全部一人でするってかんじ。」
「……さ」
ぽつりと、別の子が言った。
「私たちが、守ればよくない?」
一瞬、間が空く。
「守るって戦うって意味じゃなくて」
「そうそう、周りの空気とか、変な大人とから。」
「……クソなの、いるしね」
その一言に、何人かがうなずいた。
「利用しようとする人」
「可愛いからって舐める人」
「強いのに、そういうの我慢しちゃいそう」
一人が、静かに言った。
「じゃあ決まりですね」
「え、何が?」
「イリムを守る会の発足」
一瞬の沈黙のあと、
「……名前、それ?」
「もうちょっと何とかならない?」
と、誰かが笑った。
でも。
「でも、意味は分かる」
「うん」
「賛成」
「私も」
「じゃあ」
「できることから、少しずつ」
「無理はさせない」
「変なのは近づけない」
「困ってたら、声かける」
「それだけで、十分だよね」
「……本人は」
「たぶん、気づかないだろうけど」
そう言って、誰かが微笑む。
「それでいいよ。気づかせないための会なんだから。」
部屋には、
さっきより少しだけ、強い安心感が漂っていた。
――この夜のささやかな集まりが、
のちに世界中へと広がる
“白翼会”の発足につながるとは、
このときの彼女たちは、まだ知らなかった。
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