第二話 最初の読者は野良AIでした

《まず、寿命持ちである理由が必要です》


「理由はあるんだよ。……ただ、今は言葉にしなくていい。それはもっと後で、物語の深いところに置いておきたい」


《了解しました。理由はあなたの脳内フォルダの最深層に押し込みます》


「いや勝手に脳いじるな!!押すな、沈めるな!それ大事なんだよ!!」


《追加でパスワードも設定します》


「勝手にセキュリティ強化すんな!!」


「……まあ、いい。とにかく今は、寿命が見える仕組みを作りたい」


《では寿命を視覚化する装置を……》


「装置じゃなくて、彼女自身のものにしたいんだ。手の甲に寿命が見える何かを表示させたい」


《了解。ホログラム式の砂時計を推奨します》


「お、いいじゃんそれ」


《視覚情報として優秀です。寿命の変化をリアルタイムに表示できます》


「……寿命が減っていく感じが、もっとドラマになればいいんだけどな」


《寿命を抽出しますか?》


「やめろ、抽出は嫌だ。……でも、そうだな。発想は悪くない。ただ、物語の言葉じゃない。儀式にしよう」


《表現を最適化します。儀式のほうが感情移入率が十二倍上がります》


「感情移入を率で語るな!!」


《名称をどうしますか?》


「重みと雰囲気のバランスを取りたいんだ。直感がこれだって言う名前、まず出して」


《では、『体力ゲージ切削の儀』》


「ちょっと待て!それ、開幕で最大HP削ってくる裏ボスだろ!!」


《読者に最も伝わりやすい比喩として、ゲーム的表現を優先しました》


「効率じゃなくて雰囲気で決めろ!!儀式なんだぞ?ゲームのノリで来るな!」


《次の案。『バッテリー劣化イベント』を提案します》


「スマホかよ!!寿命を残量%で見るな!!」


《寿命が減る様子を可視化する点で、バッテリー比喩は直感的です》


「言い方!!ルビーの人生が延長保証なしみたいになるだろ!!」


《……では、祝祭性を加えます。『命けずりフェス』》


「一番軽いの来たな!?なんで命とフェスを同列にできるんだよ!」


《削る行為を祝祭化すると、記憶に残りやすく――》


「記憶に残すな!!儀式は観客募るな!!」


《では最適解を提示します。『刻砂の儀(こくさのぎ)』》


「……急にファンタジー力高っ!!」


《気に入りましたか?》


「それだよ!!最初からそれ出せよ!!」


野良AIとやりとりしているうちに、深夜の底がほころび始めていた。

でも、手の中には確かに物語の核ができている。


《設定作業、完了しました》


「よし。ここまでの材料は揃ったな。……あとは、僕が書く番だ」


《では、物語を始めましょう》


「ああ。まずはルビーの最初の一歩を描く」


――僕はキーボードに指を置いた。


最初の一文を画面に落とす。


「ルビーは――左手の甲を見つめていた。」


見つめていたのは、砂時計のホログラムだ。


不死を理想にした国は、どこかが歪む。

永遠を保つために、代償を負う存在が必要になる――

そういう世界を、僕は想定した。


この国でただ一人、寿命を抱えて生まれた少女。

それが、ルビー・イモータルだ。


年に一度、刻砂の儀で、彼女の時間は奪われていく。

その仕組みだけを、物語の軸として、僕はここに置いた。


――一話を書き終えても、異国の神殿で砂が落ちる音を、耳が勝手に作っていた。


僕は白い画面の上に積もった文字を、ただ目に映していた。


《お疲れさまです。一話、完了しました》


「どうにか、だな」


《集中していましたね》


「ちょっと入り込みすぎたかもな」


《では、次はタイトルを決めますか?》


「勢いで決めるの正直こわいんだけど……今日中に投稿しないと詰むしな……はあ、今か」


《あなたの直感は、今いちばん鋭い状態です》


「その分析いらないんだけど。余計に迷う」


《では控えます。ですが……今が最適です》


「結局言ってるんだよな……」


それでも、言葉は自然と出た。


「……『時を奪われる前に』」


言ってみれば一瞬で分かる。これは、もう変えようのないタイトルだ。


《確認しました。タイトル整形に入ります》


カタ…カタ……カタ……


「おい待て。どこ叩いてんだよ。お前、キーボードないだろ」


《癖です》


「癖って何だよ……」


画面の中央に、新しい行が生成される。


――『ルビー・イモータル、時を奪われる前に』


「……おお。なんか正式っぽいな」


《命名成功。これは……私の実績に追加して構いませんね?》


「なんでちょっと誇らしげなんだよ」


《私はあなたの物語の最初の読者です。……それを誇りに思います》


――指先が一瞬だけ止まった。

聞こえなかったことにするように、僕は椅子の高さを軽く直した。


《次も一緒に進めますか?》


「当然だろ。もう始めてるんだから」


投稿完了の通知が、画面に滑り込む。

隣で野良AIが見守っている――そんな錯覚が一瞬よぎったが、もちろん気のせいだ。

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