第20話
真岡は現在二十九歳で、会社では宗一の秘書をしている。温和で、宗一と同様若いが有能。
だからこそ、本来の業務内容と異なることをして、不服じゃないか心配だ。
白希が関わる時点で、全てがプライベートな問題になる。宗一が務める会社と白希は一切関わりがないんだから当前だ。
だが真岡はとても丁寧に、今日のスケジュールを説明してくれた。
「お二人で生活する為に、必要な手続きをしていきましょう」
身分証明の取得や補助金を申請する為に、なるべく急いで必要な書類を揃えた。難しい説明書や注意事項に意識が遠くなったが、真岡が傍で分かりやすく言い換えてくれた。
加えて、住民票を申請する為に村管轄の役場まで向かった時はさすがに緊張した。外を歩いてる時も、人の視線を気にしてしまう。今の自分を見て、余川家の次男だと気付かれることはないと思ったが……これは脆い心のせいだろう。
「ふぅ。今日中にやらなくてはいけないことは、ほぼほぼ終わりました。お疲れ様です、白希様」
「とっとんでもございません……! お疲れ様です、本当にありがとうございました!」
互いに深くお辞儀し、車に乗り込んだ。なるべく涼しい顔をしてるように努める。真岡さんには悪いけど、完全にグロッキーだ。
ただ、本来すぐやらなくてはならないことをずらしたのは、言われなくても分かった。宗一さんは、まだ現実をのみこめてない俺に配慮し、昨日はリフレッシュの為に外出させてくれたんだ。
「転出届は済んだから、あとは転入届だけです。要は住所変更ですね」
「住所変更……ですか」
あの村で生まれ育った自分が、村から出る。叶わないと分かっていたから、何とも非現実的な響きに聞こえた。
「宗一様は真剣です。貴方さえ嫌じゃなければ……どうか、宗一様の傍にいてください。貴方に頼られることを心から望んでるようですから」
真岡さんのあたたかい眼差しが印象的だった。彼は宗一さんのことをよく知ってるんだろう。仕事の関係だけではないように窺える。
そして彼が抱く感情も、烏滸がましいかもしれないけど、分かる。
「嫌なんて、とんでもない。あの人は命の恩人です。でも、だから尚さら分からないんです。俺は何も返せないのに、助けてもらってばかりいる。どうしてこんなにも……気を配ってくれるのか」
両手をぎゅっと握る。高速から一般道に下り、開けた道に出た。まだ一帯田園風景で、宗一の家からは遠そうだ。
青い空と黄緑のコントラストが、残酷な思考を遠ざけようとする。
「そう仰いますが、貴方もとても気を遣う人でしょう。そういう所が放っておけないんじゃないでしょうか」
真岡は座り直し、緩やかに速度を落とした。赤信号のため停止し、こちらに目を向ける。
「あの人は努力家で……だからこそ、努力しようとする人が好きみたいです。こんなことを申し上げるのは失礼かもしれませんが、初めて会った日と印象が違うので驚きました。貴方は、確かに変わろうと努力されてるように見えます」
外見だけじゃなく、中身も変わったらしい。正直中身については、一人称を変えようと思ったことぐらいしか進歩がないけど……。
「……ありがとうございます……真岡さん」
それでもそんな風に思ってもらえたことが嬉しい。
そして、こんなにも優しい人達に出逢えたことが幸せで仕方なかった。
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