鍾愛の花嫁

七賀ごふん

第1話「二十歳の青年」



熱い。


喉が痛い。目が痛い。息が苦しい────。


燃え盛る炎が全てを飲み込んでいく。美しかった庭園も、離れの書斎も、祖母が大切にしていた掛け軸も。


真っ赤に染まっては黒くなる。気付けば屋敷の中には誰もいなかった。皆無事に逃げ出せたのか、それとも……。


「……ごほっ」


とうとう息を吸うこともできなくなった。

柱に手をつくが、次第に力が抜けて崩れ落ちる。


誰か……。


助けて、という言葉すら出てくれない。

かろうじて持ち出した紅の羽織りを握り締め、瞼を伏せる。


もう駄目だと思った。その瞬間、身体が宙に浮いた。

「う……」

誰だ?

煤と熱気で痛む瞼を開けると、見知らぬ青年に抱き上げられていた。

いや……この人、どこかで見たことがあるような。

「もう大丈夫」

とても綺麗な人だった。彼は優しく微笑むと、額に口付けを落とした。


「ずいぶん待たせてしまったね。……白希」




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