第18話 見守る目
カンレイ全土は、しばらく戦のない穏やかな時代を迎えていた。
剣を交える日々は遠のき、城には静かな時間が流れている。
その平穏の中で、セイカとユイは日々を共に過ごし、互いを深く慈しみ合っていた。激しく想いを交わす夜もあれば、言葉もなく寄り添うだけの穏やかな時間もある。戦場では見せぬ柔らかな表情が、城内では自然とこぼれていた。
ある日のこと。
二人は城の中庭を並んで歩いていた。
不意にユイが足を取られ、よろめく。
その瞬間、セイカの腕が伸び、抱き寄せるようにして身体を支えた。転倒は免れ、ユイは兄の胸元で小さく息をつく。
「まったく……だめじゃないか。ちゃんと足元を見て歩かないと」
穏やかな叱責に、ユイは素直にうなずいた。
「うん、気をつける」
セイカはユイの髪を撫でながら、懐かしむように微笑む。
「お前は小さい頃から、よく転んでいたな」
「でも、そのたびに兄様がすぐ駆けつけてくれた」
「……そうだったな」
短い言葉の奥に、積み重ねてきた年月が滲んでいた。
だが、その光景を-----
セイカのかつての指導係であったソービが、遠くから目にしていた。
石畳を打つ、一定の足音。
コツ、コツ、とこちらへ近づく気配に、ユーラは顔を上げる。
「なんだ、お前かソービ。どうした」
「いや……ちょっとな」
歯切れの悪い返答に、ユーラは眉を寄せる。
「なんだ、用があるなら早く言え」
「……それがな……」
言いよどむソービを見て、ユーラは静かに言った。
「セイカ様と、ユイ様のことか?」
「……お前、知っていたのか!」
「当然だろう」
ユーラはため息をつくように肩をすくめる。
「私はユイ様が三歳の頃から指導にあたってきた。成長のすべてを見てきたのだ。
ユイ様の心の中には、いつもセイカ様がおられた。強くなりたいと願った理由も、すべては兄君をお守りするため。
あれほどの容姿で、年頃になっても女に一切興味を示さなかった……馬鹿でも分かる」
「……俺は、まったく気づかなかった」
ソービは自嘲気味に笑い、空を仰いだ。
「そうか……これもまた、因果というやつなのかもしれんな」
「お二人は、本気で愛し合っておられる」
ユーラの声は静かだが、揺るぎがない。
「幼い頃、あのような形で両親を失い、ずっと二人で生きてきた。
こうなるのも、自然な流れだ」
「……ああ」
ソービは小さくうなずいた。
「俺たち家臣にできることは、ただ一つだな」
「そう。余計な口出しはせず、静かに見守ることだ」
二人は言葉を交わし、それ以上は何も語らなかった。
城の中庭では、変わらず穏やかな風が吹いている。
その風の中で、兄弟は今日も並んで歩いていた。
知らぬ者も、知る者も‥ただ、見守るだけだった。
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