生涯
相田
愛をつたえたい
「ヘリコニアの花言葉は 『風変わりな人』、きみの花だ。」
陽に照って髪が茶色くなっていた。光が通って目が透けてるみたいだった。私よりずいぶん焼けた肌が愛おしかった。
「花を自分のものにするなんていやだ」
私は屁理屈っぽいことを言った。
わずかに微笑んだのが、きみの目には奇妙に写ったかな。鮮明に覚えていて、忘れられないよ。
花畑の中で目を細めながら周りの人に気づかれたくなくて、息をひそめて笑ったこと。
「懐かしいね。」
私がアルバムを眺める横で、彼はそう言った。
次へ次へとページをめくる。
懐かしい。
写真、時間、場所、から、匂い、風、感触、表情、空の色。記憶は必ず、だんだんと、薄れていく。けど、ふとした瞬間が昔に繋がることがある。それが好きだ。かといって、記憶のない写真を見て、他人みたいに面白がるのだって嫌いじゃないけれど。
「こんなところ、行ったっけ?ああ、過ぎちゃうと忘れるものだね。きみは覚えてる?」
「じつはよく覚えてる。懐かしいよ。」
手元には、私と彼が猫に囲まれている写真。よく見ると彼はブレている。そして私はなんだか困った顔だ。
「可愛いね。」
彼は、肩に寄り添ってそう言った。
「猫が?」
「写真、ぜんたいが。猫も君も。忘れるんじゃなかったな。猫カフェ行ったこと。」
臭い言葉に笑った。でも、それに反して彼は少しだけ悲しそうな顔だった。
「仕方がないよ。人間の記憶フォルダにはキャパがあるの。意識的か無意識的か、そのどっちかで、私たちは必要な情報を残して、不必要なものは捨てちゃうの。」
「不必要なものなんてないのにさ。」
もう夜は遅い。
小窓から差し込むのは月の光だろうけど、室内の明かりで、それはもちろん見えない。
テレビも付けず、静かで、響く音は私たちの動きだけ。こんな夜が好き。
「安心しなよ。」
私は彼の背中を優しく叩く。
「何が?」
「きみより大きい私の必要フォルダが、きみにとって不必要だと認識された記憶をたくさん持ってるんだから。」
今度響くのは、笑い声。また、息をひそめた。静かな空間に聞かれるのが恥ずかしいと、お互いに思った。
「お互いの不必要フォルダは、お互いの必要フォルダかもね。」
彼はそう言った。
そして私は目を見つめる。
「かもじゃない、そうなんだよ。」
私に、ほんとうの記憶というものを与えてくれたのは、きみなんだよって言いたい。
死ぬとき、死んだとき、自分の生きる姿が想像できないのって言いたい。
思い出をお互いに背負って、でも、そうさせたのは紛れもなく私たち。
静かな夜も、思い出も、大切だと思わせてくれたことを、私は生涯抱きしめたい。
そして、あなたも同じことを、想ってくれることを、願ってるよ。
生涯 相田 @Mini44444
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