第9話:四畳半の聖域
「……狭いわね。ここ、人間が住む場所なの?」 「先輩、失礼ですよ。……佐藤さん、この床に落ちている紐のようなものは何ですか? 規律として、まずは大掃除から始めるべきでは?」 「えー、私は狭い方が密着できていいと思うな。ね、佐藤くん?」
週末。俺のボロアパートの一室は、かつてないほどの「美少女密度」に達していた。 氷室会長は落ち着かなげにきょろきょろと座布団の端を握り、二階堂は部屋の四隅をチェックし、星野は当然のように俺のベッドの上に腰掛けている。
「さあ、佐藤くん。ピクニックの続きよ。……私のための、私だけの料理。ここで作ってくれるんでしょう?」
会長が潤んだ瞳で見つめてくる。今日の彼女は、エプロンを持参していた。 「私も手伝うわ。……あなたと並んで、キッチンに立つ。それが今の私の、最大の『きゅん』なんだから」
だが、俺の部屋のキッチンは、一人で立つのも精一杯の極狭スペースだ。
「甘いです先輩! 包丁を握らせるなら私の方が……っ」 「ちょっと、二人とも下がって。私が味見担当(センター)なんだから!」
三人が狭いキッチンに無理やり入り込もうとして、俺を壁際に押し込む形になる。右側に会長の柔らかな肩、左側に星野の甘い香水、そして正面から二階堂の真剣な眼差し。
「……あの、皆さん。近すぎます。これじゃ包丁が握れません!」 「近くないと……『隠し味』が見えないじゃない」
会長が俺の耳元で熱い吐息を漏らす。 その時、トントン、とドアを叩く音がした。
「悠介ー? あんた、また変なもん食べてないでしょうね。……あら?」
最悪のタイミングで現れたのは、予備の鍵で勝手に入ってきた俺の母親だった。 エプロン姿の会長、俺に密着するアイドル、そしてゴミ袋を掲げた風紀委員。
「……悠介。あんた、いつの間に『お弁当のデリバリー』じゃなくて『女の子のデリバリー』始めたの?」
「母さん、違う! これは……これは、その、料理教室なんだ!」
俺の叫びは、会長の「お母様、ごきげんよう!」という叫びにかき消された。
「(―――終わった。何もかも終わった。)」
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