カリスマの眼
こはく糖。
カリスマの眼
夜中の11時くらいに急にお腹が空いて近くのコンビニにいこうと思いたち、分厚い上着とマフラーを巻いて外に出たのだがあまりの寒さに身震いした。
「さっむ…」
歩いている時、ハーッと息を吐くと目の前に白くなって現れるのがなんだが楽しくて何度もやっているとあっという間に着いてしまっていた。
中に入ろうと思い自動ドアの前に足を踏み出した時、直感的に眩しいと感じた。
普段マイペースな僕はあまり周囲のことを気にしない、ある意味自己中心的な人物だ。
そんな僕が眩しいと感じた。
周囲を気にせず、自分のことしか考えない僕が、だ。
…いや、あまり関係ないかもしれないが。
思わず立ち止まってしまった僕に構わず開いた自動ドア。僕の隣をその子は吸い込まれるように入っていってしまった。
中学生ぐらいで美人の子だったと言われればそうではない、至って普通だったと思う。
印象に残ったのは眼だった。まっすぐだったのだ。ただひたすらに。まるで水平線を見つめているように。文字だけでは理解できないと思う。実際に見てみなければ。
しばらくぼーっとしてしまっていた僕は我に返り慌てて店内へと入った。
コンビニはいつどこで入ってもあったかくて、家みたいだなと僕は思う。
とりあえずカップラーメンでも買おうとコーナーの方に向かうと…居た。その子が。
その眼で見つめていたのは向かいにあるデザートコーナー。手には小さめの袋のチョコのお菓子が握られており、デザートコーナーとチョコのお菓子を交互に見つめていた。
悩むよな、心の中で俺も首を縦に振った。
お菓子の方はそれなりに満足する量が小袋でも入っていて買いやすい、けどコンビニスイーツってちょっと高いけどそれを感じさせない美味さしてんだよな。
ふとその子が持っているお菓子の袋に「頑張れ受験生!めざせ合格!」と買いてあるのが目に入った。
その時、一つの記憶が蘇ってきた。
とうに自分の多くのありふれた記憶として消えてしまったと思っていたものが。
僕は教師を目指すために経験を積むため塾でアルバイトをしていた。ある日、その塾で仲のいい教師の先生に一緒にチラシ配りをしないかと誘われた。ちょうどその頃、僕は教員採用試験に3度も落ちて自信を失っていた。気晴らしに、と言われ仕方なく着いて行った。朝7:30頃、塾から一番近い中学校に着くと既にちらほらと校門に入っていく姿があった。校門に立ち、チラシを持って先輩と声をかけ始める。しかし、僕はそれまでの疲れとストレスでやる気がなく下を向きがちだった。
「あの、すみません」
突然、声をかけられた。普通、こういうのって素通りしていくか「すみません…」とかなんとか言って通り過ぎてくもんじゃないの?どういうこと?と思い顔を挙げると赤いネクタイが目に入った。
(たしか…赤は3年生…だったか?)
「すみません、突然声を掛けてしまって…よかったらこれどうぞ」
「え、あ、え?」
差し出されたのは個包装された飴だった。
「あ、ありがとうございます…」
よくわからないまま受け取ると目の前の少年はにっこりと笑った。
「いつもお疲れ様です!俺も受験頑張りますんで!」
「ちょ、ま…」
じゃ、と言って歩き出してしまったその子を慌てて引き止めようとして目を見開いた。そこで初めてその子の眼を見た。朝日のように眩しくて、水平線のようにまっすぐだった。
僕がかなり頑張って表現するならば、超自然的で超人間的で非日常なとにかく目の離せない資質を持っていた。
いつの間にか隣にいた先生は僕の肩をぽんっと叩いた。
「俺もさ、ちょっと仕事苦しくなったらここ来てこの子達の眼を拝んでるんだよね。」
「拝むって…」
「お前も元気もらえたろ?」
「…。」
何も言えなかった。自分の中でなにかが芽生えた気がした。
「…僕もう一回やってみます、あの子達に負けられない」
なんとなく背中を押してもらったような気がした。それから4度目の教員採用試験で僕は晴れて教師になることができた。
懐かしい記憶に浸っている間にその子は結局チョコのお菓子を手にレジへと行ってしまった。
その背中にひっそりとエールを送る。
「がんばれ」
君たちの頑張りの全てが籠ったそのカリスマの眼に今日も励まされる。
近くにあった海鮮ヌードルを取りレジへと歩きながらぼそりと呟く。
「さて、帰ったら採点もう一踏ん張りだ」
カリスマというのは誰よりも頑張っている人で誰よりも朝日のように眩しくて水平線のようにまっすぐな眼をしている。
そして、自然に人を惹きつけ背中を押す。
そんな存在なのだ。
カリスマの眼 こはく糖。 @hamizu-241355
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