第2話

 「倫理りんりいわいな」

 「コノダさん、それは、公害を発生させた重化学工場の、倫理観が皆無であるという意味でしょうか」


 「ああ。――――すな なす、――汚水おすい―――はい―す、を」



 私の質問に対して、漁師の小野田このだ洵造じゅんぞう痛々いたいたしく言葉をつづった。



 昭和中期の高度経済成長期に深刻な社会問題となった、公害。

 中でも水俣病、イタイイタイ病、新潟水俣病は、公害による水質汚濁の顕著な例であるが、太平洋ベルトに位置するこの地域の海域も、かつて水質汚濁が酷かった時期が存在した。

 

 有害物質を含んだ廃水はいすいが河川を経由して海底に流失したことで、汚染された牡蠣カキ


 


 外殻を構成する炭酸カルシウムが汚染によって変色したその奇妙な牡蠣。それを喫食した人間は、しばしば様々な症状に苦しめられた。


 病変びょうへんによって話し言葉が不随意ふずいい廻文調かいぶんちょうになってしまう症状も、その一つだ。


 人類はその罪を忘れてはならない。無知であってはならないのだ。


 私たちの海は呪われてしまった。それを伝えることが、漁師としての私の使命なのだ。








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