冒頭の酒場シーン、「溶岩を飲み干した!」と騒ぐ酔っぱらいたちの笑い声の中で、フードの下で果実水を吹き出しかけているエスクリの姿がもう最高だ。自分の伝説がここまでの筋肉ダルマに改変されているのを苦笑しながら眺め、「でも平和の証明としては満点」と受け入れてしまう——その達観と、時々滲む元男の照れがエスクリというキャラクターの魅力をまるごと一話で伝えてくれる。
設定の発想力がとにかく面白い。魂を分割転生した結果、「剣士エスクリ」と「聖剣エペ」という形で自分が二人に分かれてしまい、お互いがお互いのことを「ボク」として認識しながら旅をしている。エペが念話でツッコミを入れてくるのに対して、エスクリが声に出して返事しなければならないという地味な不公平さも含めて、コンビの掛け合いが絶妙に噛み合っている。
「頼れる男に憧れているのに体は美少女」というエスクリの葛藤が単なるギャグに収まらず、前世で青春を全部捧げた後悔と今度こそ謳歌したいという意地がちゃんと背景にあるから、ヴィクトルとのぶつかりあいの一瞬で胸がドクンとする場面にきちんと説得力が生まれる。「ボクは男だよ、認められないって! あれ!?」という最後の自壊が最高に可愛い。
破れ綴じさんの前作「俺は死んだはずだよな?」と比べると、こちらはずっと明るく軽快なテンポで、一話目から笑いとときめきが両立している。どちらも主人公の「ふりをする」緊張感を楽しむ構造が共通していて、作者の持ち味がしっかり出ている。