第18話 記憶が飛んでゆく

その夜。私はふと、自分のスマホの番号を思い出そうとした。

「えーと、090の……。……あれ?」

思い出せない。

それどころか、会社の同僚の名前も、よく行っていたカフェの場所も。

「……蝶子さん、これって」

「言ったでしょう。ここは『忘れる場所』でもあるって」

恐怖が込み上げる。

コメディな日常の裏側で、私は着実に「岩音なるみ」を失いつつある。

笑っているうちに、私は本当にただの「石野八千代」になってしまうのではないか。

「嫌よ……。全部忘れる前に、もっとトクを稼いで、絶対ここを出てやる!」

私は暗闇の中で、老婆の細い拳を強く握りしめた。

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