大好きな幼馴染に彼氏が出来る夢を見たので素直になってみた

青空のら

大好きな幼馴染に彼氏が出来る夢を見た

 夢見が悪かった。大事なもの失う夢。

 うなされて目を覚ました時、何もない空間に向かい手を伸ばしていた。伸ばしても届かなかった手……

 大事な物は失った後に後悔しても遅いのだ。そして、失わないと決めた覚悟の前には、照れやプライドなんて関係ない。

 まだ間に合う、きっと間に合う、いや、間に合わせる。

 伸ばした手に力が入る。


 *********


「へへへ、良いだろう?」


 くるりと回る姿にスカートがひらひらと舞う。新しく買った服を見せびらかしに来たようだ


「そうだな、よく似合ってる」

 購入する時に立ち会ったのだから当然の話である。


「だろう?まあ、素がいいから何着ても似合うんだけどね!」

「まあな」

 何年の付き合いだと思ってるのだろう?何着ても可愛いのは揺るぎない。


「溢れる笑顔、ほとばしる若さ、ぴちぴちの肌、ふくよかな胸にキュッと締まったくびれ、とどめに弾力のあるヒップ!男性陣の視線を独り占めだよ」

「うんうん、異論はない」

 過剰な自惚れではない。今すぐにでも抱きしめたいくらいだ。


「でもまあ、この身体触れてもいいのは彼氏だけだけどね」

「いや、幼馴染でもいいだろ?」

 妥協点を探ろう。許可さえ出ればすぐにでも触れたい。


「残念!幼馴染が気安く触ってもいいのは思春期前までなんだな」

「いつも手を繋いで学校に行ってたじゃないか」

 当然の権利として主張させてもらう。


「小学校の頃の話でしょ!あれ?中学でも繋いでたかな?」

 先週も繋いだ。繋いでいる間中、胸がドキドキしていたのは内緒だ。


「小さい頃は一緒の布団に寝た事もあるというのに薄情な!というか、彼氏なんて聞いていないぞ?」

 ガードはしっかりと固く堅めていたはずなのにいつの間に!?血の気がひく。間に合わなかったのか?


「へへへ、これから作るのさ!本気を出せば直ぐにゲットだぜ!」

「くそ!その胸を好きに触れるとか彼氏が羨ましいぜ」

 ノーセクハラ!おさわり厳禁!理性の限り我慢してきたというのに。


「そうだよ。ただの幼馴染は指を咥えて見てれば良いよ」

「本当に羨ましい、じゃなくてけしからん!俺だってずっと夏樹が好きなのに」

 いつも側に居た。気付いた時には好きだった。とても大事な女の子だ。


「ふへぇ?!」

「いつ好きだと告白しようか悩んでいたのに、俺以外の彼氏を作るのか……」

 どうする?どうすればいい?彼氏を作るなとは言えば考え直してくれるのか?


「いやその……え?」

「距離感が近すぎて告白するタイミングが分からない。それが最近の寝不足の原因だ。おかげでろくに頭が回っていない」

「ふぉぉおお!!??」

「どうかしたのか?」

 思い留まってくれたのかと期待を込めてその顔を見つめる。


「いやいや、普段から女の子とか全然興味なさそうだったよね?」

「当たり前だろ?昔からずっと夏樹一筋だ」

 一度も浮気心を持った事はない。それは胸を張って誇れる。目移り?するわけがない。


「ふぁ!?いやいや、そんな素振りなかったよね?」

「いつも『いい乳してるね!』って言ってる」

 中学1から急に大きくなり出したんだよな。好きになったのはそれ以前だ。胸が大きかろうが小さかろうが夏樹は夏樹だ。


「それセクハラだからね!他の女の子に言ったら大問題になるやつ!」

「夏樹相手だとセクハラにならない?」

 ノーセクハラ!セクハラ駄目、絶対駄目。


「それは!?あれよ、あれ!幼馴染の軽口ってやつで!もう慣れっこになってるからね」

「本心から褒めてる」

「そこは『いつも可愛いね、って言ってる!』じゃないの?」

  夏樹に背中を叩かれる。恒例の照れ隠しだと分かってても、痛みで息が詰まる。


「うぐっ!そうです」


『おはよう、今日も可愛いね!』『知ってる』『今日もいい乳してるね!』『当然だよ!』が二人の恒例となった朝の挨拶。


「まさか幼馴染が本気でエロい目で見ているとは思わなかったよ!?」

 胸を隠す仕草をする。


「エロい目で見るわけない。揉みたくなるほどいい形してると褒めている」

 やれやれだ。肩をすくめる。そばにいるための努力をどれだけしているのか、夏樹は知らない。


「本当かな?」

「触りたいと思うのは夏樹だけだ」

「えへへ」

 満更でもない顔でニヤける。


「そばに居るといい匂いがして思わず抱きしめたくなる」

 我慢するのが大変だ。


「ふぇ!?」

「柔らかいのは以前に抱きしめた経験上知ってる。ずっと抱きしめていたくなる柔さと匂いだった」

 通学途中で転びそうになった時。学校の階段を踏み外して落ちそうになった時。親子喧嘩で家を飛び出した夏樹を慰めてた時。


「んんん!幼馴染が変態さんだった!?」

「変態が嫌いだから俺以外の彼氏を作ろうとするのか?」


 幼馴染の関係を壊したくないから、指を咥えて俺以外の彼氏と仲良く過ごす姿を見ていると?

 幼馴染のままならそばに居れると?

 否!

 望んでも手に入らないなら漠然とそばに居る意味はない。自分の気持ちをきちんと伝えて、その上で幼馴染という関係が終わるならそれは仕方がない。

 自分の気持ちを伝える前に夏樹に彼氏が出来る、という戦う前の敗北だけは避けねばならない。


「春人は小さい頃からの幼馴染だし」

「そばにいる努力はした」


「小1までおねしょしてたのも知ってるし」

「内緒にしてたけど小2でもやらかした」


「おっぱい星人だし」

「夏樹のが小さいなら貧乳星人になってた」


「いつも勉強教えてくれてるし」

「何聞かれてもいいように結構頑張って勉強してる」


「私、わがままだし」

「知ってる」


「きっと束縛するし」

「したいだけすればいい」


「筋肉フェチだし」

「知ってる、だから部活に入って鍛えた」


「面食いだし」

「見捨てられないように努力はする」


「結婚式のお色直しは3回はしたいし」

「頑張って二人で結婚資金貯めよう」


「子供は3人は欲しいし」

「そうだな」


「返品効かないんだけど、本当にいいの?」

「こちらこそよろしくお願いします。夏樹が大好きです。よかったら俺と結婚して下さい!!」


「!!??何か途中をすっ飛ばしてるよ?」

「これだけ長くそばに居たんだから恋人も婚約者も大して変わらないだろ?」


「逃げられなくなっちゃうよ?」

「こちらこそ、逃す気はないよ」


「えへへ!」

 満更でもない顔で夏樹が胸に飛び込んで来た。

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