第1話—惑星サバイヴ—
「おいおい嘘だろ?まさかあんたその恰好で行くつもりか?」
「やめとけやめとけ!すぐに死んじまうぞ!」
「命落とす前に自分の星に帰りな!」
ギャハギャハと下品な笑い声を上げる異星人たちの視線の先に、1人の人間態の女戦士がいた。
露出はほとんどない。
だが、鎧や防護具に加えて武器すら手元にない黒を基調とした軽装。
その姿は、これから戦場へ行くにはあまりにも場違いすぎた。
「ねえちゃんやめとけ!綺麗な顔に傷がつくぞ!」
「そン時はオレがもらってヤルよ!」
それでも動かない彼女に、周りはますます盛り上がっていく。
だが、その中でも彼女が異質な存在であることを見抜いた者たちもいた。
控えめながら美しい装飾文様が施された汚れひとつない黒の布地。
優雅さと気品、そして隙のない立ち姿。
圧倒的強者としての存在感を感じた者たちが、早々に距離を取っていく。
そんな中、彼女の顔を見て卑しい笑みを浮かべて近づく者がいた。
「あんた、やっぱり結構かわいい顔してるじゃねえか。どうせならこんな殺伐としたところじゃなくて俺たちと楽しいことでもしようぜ」
トンボの様な見た目の男が、彼女の肩を馴れ馴れしく組んで顔を覗き込む。
次の瞬間、男の動きが完全に止まった。
周囲はその美しさに心を奪われたのだと笑っていたが、実際はそうではなかった。
確かに彼女は、百人が百人振り返るような月夜を体現したような美貌を持っている。
だが薄っすら紫に光る瞳には底知れぬ闇が広がり、目が合った瞬間男は恐怖のあまり動けなくなってしまったのだ。
身体を震わせ、呼吸が荒くなっていく様子に周囲もやっと異変に気が付いた。
強引に引き離すと、男はへたり込み頭を抱えたまま動かない。
絡まれた本人は、何事もなかったようにまた列に並び直す。
仲間の異常事態に詰め寄ろうとしたところで横槍が入ってしまった。
「おい!そこで何をしている!」
この星に住まう鳥獣のような見た目の種族”トレビス族”の警備兵だ。
出来心でちょっかいを出した結果、ここまで大事になってしまうとこの後もこの星で滞在しにくくなる。
そう考え、男たちはそそくさと逃げていき事態は収束した。
その後、時を告げる鐘の音が2回鳴り、ようやく女戦士は列の先頭にたどり着くことが出来た。
キングギドラ超銀河団某所にある惑星系、通称”サバイヴ”は恒星と七つの惑星で構成されている。
それぞれの惑星には、大小様々な怪獣や超獣が等級ごとに住んでいる。
名称としても使われている数字が大きくなるにつれ、その強さも上がっていくのが特徴である。
「全星制覇した者こそ、最強の戦士である」
こうして、いつからか訓練や修行のため多くの異星人がやってくるようになった。
一方で、金の動きをいち早く感じ取り、ならばこれを商売にしようという者たちまで現れた。
それが、多方面の宇宙ビジネスに強いトレビス族である。
彼らの読み通り、時が経ち宇宙技術が進んでいくことで多くの者たちが訪れることが出来るようになった。
今では、観光地としても人気となっている。
彼女がいるこの場所は登録所、列に並ぶ者たちは挑戦者と呼ばれ、はじめに身分の登録とサバイヴでのみ有効な登録カードの発行を行う。
制覇するごとにその証としてスターマークが印字され、最終的に7つのスターマークを集めたらここでの滞在費が無料となる。
全て集めなくても制覇数に応じて割引されたりとお得なため、軽い気持ちで挑戦する者も後を絶たない。
だが、彼らが相手にするのは怪獣や超獣だ。
大きさもパワーも桁外れの脅威を前に素人が敵うはずがなく、いくつもの儚い命が毎日散っていく。
それは素人だけでなく、歴戦の猛者でさえ一瞬の油断で命を落とす。
弱肉強食の世界。
生きるも死ぬも全てが自己責任。
―――これがサバイヴである。
そして、彼女が求めてやまないものでもあった。
誰にも邪魔されず、文句も言われない。
好きなだけ戦い続けることが出来る。
生死を賭けたスリリングな世界。
それが、唯一彼女の心を動かすことが出来るのだ。
「書類と登録料として5ユーヴをお願いします」
列に並ぶ際に書かされた書類と登録料の銀貨を受付のトレビス族に渡す。
そう時間を置かずにカードを渡された。
登録カードとはこの地で死んだ場合、あるいは一定期間更新がなかった場合、身に着けていた物も荷物も、すべて回収されることを意味する。
金品は運営資金となり、それ以外は商品として、再び市場へと流れる。
彼女が今、無言で受け取ったそのカードは、それらすべてを承諾した証でもあった。
カードは、これら全てを承諾した証でもあるのだ。
「こちらのカードは惑星間移動ポートや各惑星登録所で必ず必要となりますので無くさないようにしてください。万が一無くされた場合は、各惑星登録所での再発行が出来ますのでお気軽にお立ち寄りくださいませ」
「分かった。ありがとう」
「いえいえ。・・・それではニックス・ノックス様、ご武運を」
ニックス・ノックス。過去を捨てた彼女が、新たに着けた名前。
登録所内にある宣伝物の中から適当につなぎ合わせたもので、意味も何も持ち合わせていないただの記号だ。
丁寧に頭を下げるトレビス星人に女戦士”ニックス・ノックス”も軽く一礼する。
出口を出れば、いよいよ待ちに待った遊び場だ。
はやる気持ちを抑えて、ニックスは歩き出すのであった。
こうして始まったサバイヴでの生活だが、ニックスは正直がっかりしていた。
来るもの来るもの全く手ごたえがないのである。
あまりの弱さに力加減を間違えた結果、まばたきをした瞬間にことが終了。
気づけば、第1惑星から第4惑星まで史上最速での制覇を成し遂げていた。
第4惑星から第5惑星へと移動し、ポートエリアを出て登録所へと足を運ぶ。
途中何度も視線を感じたが、気に留めることはなかった。
登録を終えて登録所を出ると、隣接する医療所が異様な騒がしさに包まれていた。
「ちょ、超獣だ!超獣が・・・っ!」
「いやだっ!しにたくないぃ!」
「た、たす・・」
五体満足とは言い難い挑戦者が、次々とタンカーで運ばれていく。
恐怖に顔を歪め、引き返す者もいた。
だが、ニックスの口元はわずかに緩んだ。朗報である。
―――超獣。それは、怪獣を凌駕する存在。
滅多に姿を現さないが、現れたとなれば話は別だ。
「……久しぶりだな」
餌を選ぶ、美食家の怪物。
そして、その餌となり得るのは、光の加護を受けた一族――アマテガミ族。
ニックスが、数少ない“強者”として認める存在だった。
「どうせ、時空の裂け目でも出来たんだろ」
周囲の挑戦者たちはそう言い残し、去っていく。
ニックスは一人、空を見上げた。
恒星がひとつ、爛々と輝いている。
その光が、500年前の記憶を呼び覚ました。
無人惑星で遭遇した、宇宙警備隊。
相対したのは、NO.2の男。
恒星のように輝くオーラ。
目を奪われるほどの、強さ。
―――出来ることなら、もう一度。
小さく笑みを浮かべ、ニックスは静かに医療所を後にした。
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