「役立たず」と追放された宮廷付与術師、実は世界律を書き換える『神の言葉』使いでした。~今さら戻れと言われても、伝説の竜や聖女様と領地経営で忙しいのでお断りします~
第1話 「役立たず」と言われて追放された日
「役立たず」と追放された宮廷付与術師、実は世界律を書き換える『神の言葉』使いでした。~今さら戻れと言われても、伝説の竜や聖女様と領地経営で忙しいのでお断りします~
@eringeek
第1話 「役立たず」と言われて追放された日
「単刀直入に言おう。アレン、お前はクビだ」
王都にある高級宿の一室。
最高級のオーク材で作られたテーブルに足を投げ出し、深紅のワインを揺らしながらそう告げたのは、この国の希望である『勇者』ライオネルだった。
僕は荷物をまとめていた手を止め、ゆっくりと振り返る。
そこには、僕を見下すような嘲笑を浮かべたライオネルと、その取り巻きである賢者フィオナ、聖女マリアの姿があった。
「……クビ、ですか。それはつまり、勇者パーティからの追放ということでしょうか?」
「はっ、それ以外にどういう意味があるんだよ? ニホン語もわからなくなったのか? これだから地味な『付与術師(エンチャンター)』は困るんだ」
ライオネルが鼻で笑うと、隣に座っていた賢者フィオナが髪をかき上げながら追撃してくる。
「ねえアレン。悪いけど、これ以上貴方みたいな寄生虫を連れて歩くのは無理なのよ。私たちの足手まといになっている自覚、あるでしょう?」
「そうですねぇ。アレンさんの支援魔法って、本当にかかっているのかどうかも怪しいですし。私なんて、戦闘中に一度も魔力を感じたことがありませんもの」
聖女マリアまでが、クスクスと笑いながら同意する。
僕は小さくため息をついた。
彼らの言い分は、ある意味では予想していたことだったからだ。
僕の職業は『宮廷付与術師』。
剣や体に魔力を付与し、仲間の能力を底上げする裏方職だ。
派手な爆裂魔法を放つ賢者や、神々しい光で傷を癒やす聖女、そして聖剣で魔物を薙ぎ払う勇者に比べれば、確かに地味極まりない。
「……僕の付与魔法が役に立っていない、と。皆さんはそうお考えなんですね」
「当たり前だろ! 俺の聖剣技『グランドクロス』の威力を見たことがあるか? 一撃でドラゴンすら消し飛ばすんだぞ。お前のちまちました攻撃力アップなんて、誤差みたいなもんなんだよ」
ライオネルがテーブルをドンと叩く。
「それに、お前は戦闘中何をしてる? 後ろでボソボソと何か呟いてるだけで、攻撃にも参加しない。防御もしない。ただ突っ立ってるだけじゃないか。俺たちが命がけで魔王軍と戦っている間、特等席で見物か? いいご身分だな」
「そうね。正直、貴方の分の報酬を分配するのが馬鹿らしくなってきたの。その分を新しい攻撃役(アタッカー)を雇う資金に回した方が、効率的だわ」
フィオナの言葉に、僕は内心で首を傾げる。
僕の魔法が誤差?
後ろで突っ立っているだけ?
(おかしいな……。昨日のドラゴン戦でも、ライオネルがブレスに焼かれないように『熱遮断(ヒート・レジスト)』を三十重に掛け続けていたし、フィオナが詠唱に集中できるように『思考加速(ヘイスト)』と『魔力無限供給(マナ・ドレイン)』を常時接続していたはずなんだけど)
それに、聖女マリアについてもだ。
彼女は「癒やしの聖女」と呼ばれているが、彼女のヒールが間に合わない即死級の攻撃が飛んできた時、僕がこっそりと『因果逆転(リバース)』を使って、傷を負った事実そのものを消去していたことになど、気づいてもいないらしい。
だが、僕はここで反論するのをやめた。
なぜなら、彼らの目には「自分たちの強さは自分たちだけのもの」という強烈な自負しか映っていないからだ。
それに何より――僕自身、疲れていたのだ。
僕が使う付与魔法は、少し特殊だ。
古代の文献にあった『神の言葉(ルーン)』と呼ばれる術式を組み込んでいるのだが、これの維持がとにかく面倒くさい。
効果範囲をパーティ全体に固定し、さらに効果時間を『永続』にするために、僕は四六時中、寝ている間さえも無意識下で魔力制御を行っている。
彼らが「魔力を感じない」と言うのも無理はない。
あまりに自然に、呼吸をするように世界そのものを書き換えて能力を底上げしているため、付与されている本人ですら違和感を持たないレベルまで昇華させてしまっているからだ。
その負担は凄まじい。
正直なところ、ここ数年は肩こりと慢性的な睡眠不足に悩まされていた。
「……わかりました。パーティを抜けます」
僕があっさりと承諾すると、ライオネルたちは拍子抜けしたような顔をした。
もっと泣いて縋ってくると思っていたのだろう。
「ふん、少しは自覚があったようだな。まあいい、これでお荷物が消えて清々したぜ」
「装備品は置いていきなさいよ? それはパーティの共有財産で買ったものなんだから」
フィオナが意地汚く言ってくるが、僕は自分が着ているローブを指差した。
「これは僕が個人的に、露店で買った古着ですけど」
「チッ、貧乏臭い。ならいいわよ、そんなボロ布。さっさと出て行って」
「あ、そうだアレン。ギルドへの脱退手続きはこっちでやっておくから、お前は二度と俺たちの前に顔を見せるなよ? 『元勇者パーティ』の肩書きを利用して悪さとかされたら迷惑だからな」
「はいはい、わかりましたよ」
僕は彼らに背を向け、部屋の出口へと向かう。
怒りや悲しみは、不思議と湧いてこなかった。
むしろ、胸の奥から湧き上がってくるのは、重い足枷が外れたような開放感だ。
(やっと……やっと休める)
これでもう、24時間365日、仲間のバイタルサインを監視し続けなくていい。
いつ飛んでくるかわからない即死攻撃に備えて、神経を研ぎ澄ませる必要もない。
彼らの我が儘や暴言に耐えながら、必死に裏方作業に徹する必要もないのだ。
「今までお世話になりました。皆さんのご活躍を、遠くからお祈りしていますよ」
「はんっ! 負け惜しみか? せいぜい野垂れ死なないように気をつけな」
ライオネルの嘲笑を背に、僕はドアを開けて廊下へと出た。
パタン、と扉が閉まる音が、僕と彼らとの関係の終わりを告げる。
宿屋の廊下を歩きながら、僕は大きく伸びをした。
「うーーーん! 終わった! 終わったぞおおお!」
思わずガッツポーズが出そうになるのを堪える。
これからは自由だ。
誰にも縛られず、好きな場所で、好きなように生きる。
「とりあえず、王都を出よう。こんな物価の高い街にいても仕方ないし、なにより彼らと顔を合わせたくない」
僕はその足で自分の部屋に戻り、わずかな荷物をまとめた。
と言っても、マジックバッグ一つに収まる程度の家財道具しかない。
宮廷付与術師としての給金はそれなりにあったはずだが、そのほとんどは「パーティの装備費」「活動経費」という名目でライオネルたちに徴収されていたから、手持ちの資金は雀の涙ほどだ。
それでも、心は軽い。
僕は宿屋の裏口からこっそりと抜け出し、王都の正門へと向かった。
夜の帳が下り始めた王都の街並み。
煌びやかな魔法灯が灯る大通りを避け、路地裏を歩く。
正門が見えてきたところで、僕はふと足を止めた。
振り返れば、王城と、その近くにある高級宿屋の灯りが見える。
「……さて」
僕は右手を軽く持ち上げ、パチンと指を鳴らした。
それは、僕なりのけじめ。
そして、これからの自由な生活へのスイッチだ。
僕がこれまでライオネルたちに掛け続けていた付与魔法。
・身体能力強化(フィジカル・ブースト) レベルMAX
・自動回復(オート・リジェネ) レベルMAX
・全属性耐性(オール・レジスト) レベルMAX
・幸運補正(ラック・アップ) レベルMAX
・経験値獲得倍加(エクスペリエンス・ダブル)
・即死回避(デッド・エンド・キャンセル)
・絶対命中(アブソリュート・ヒット)
・消費魔力ゼロ化(ゼロ・マナ)
etc...
これら常時発動型のアクティブ・スキルを、すべて『解除(リリース)』したのだ。
ブォン……。
世界から何かが抜け落ちたような、低い音が大気中で響いた気がした。
もちろん、常人には聞こえない音だ。
「ふぅ……身体が軽い」
魔法の維持に使っていた膨大な脳の処理領域が、一気に解放される。
頭が冴え渡り、視界がクリアになる。
肩の凝りも嘘のように消えていた。
(やっぱり、相当無理してたんだなぁ)
彼らのステータスを無理やり底上げするために、僕は世界の理(ことわり)に干渉し続けていた。
本来ならありえない強度を肉体に持たせ、ありえない速度で魔力を回復させていた。
それを切ったのだから、彼らはこれからは『本来の彼らの実力』で戦うことになる。
「まあ、彼らはSランク冒険者だし、勇者だし。僕の些細な支援がなくなったところで、問題ないだろう」
僕は本気でそう思っていた。
僕の魔法なんて、せいぜい毛が生えた程度の効果しかないはずだ。
だって、師匠(じいちゃん)はいつも言っていた。
『アレン、お前の魔法はまだまだ基礎の基礎じゃ。呼吸をするように自然に使えなければ、一人前とは言えんぞ』
あのスパルタな師匠の言葉を信じるなら、僕の魔法はまだまだ未熟。
だから、僕が抜けたごときで勇者パーティが崩壊するなんて、ありえるはずがない。
「さて、と」
僕は門番に身分証を見せ(あやうく『宮廷付与術師』の証を出しそうになったが、冒険者カードを見せた)、王都の外へと踏み出した。
目指すは、大陸の北部に広がる辺境の地。
人の手がほとんど入っていない、自然豊かな森があると聞く。
「そこでなら、静かに暮らせるかな。畑でも耕して、のんびりと」
スローライフ。
なんて甘美な響きだろう。
僕は夜風に吹かれながら、軽やかな足取りで街道を歩き始めた。
◆ ◆ ◆
一方その頃。
アレンを追放した勇者ライオネルたちの部屋。
「あーあ、やっとせいせいしたわ。あんな陰気な男、見てるだけでイライラしたもの」
賢者フィオナがソファに深々と座り込み、ワイングラスを手に取る。
「本当ですね。これで空気が美味しくなります」
聖女マリアもニコニコと微笑んでいる。
勇者ライオネルは、上機嫌で肉料理を頬張っていた。
「全くだ。あいつの分が浮いたから、明日はもっといい装備を見繕いに行くぞ。なんたって俺たちは世界最強のパーティだからな!」
「ええ、そうね。……あれ?」
フィオナが不審な声を上げた。
「どうした、フィオナ」
「い、いえ……なんか、急に身体が重くなったような……」
フィオナが眉をひそめて自分の肩をさする。
先ほどまで羽のように軽かった身体が、急に鉛を含んだように重く感じるのだ。
「飲み過ぎなんじゃないか? 俺はなんとも……いや、待てよ?」
ライオネルもフォークを置いた。
言われてみれば、全身に奇妙な倦怠感がある。
まるで、今まで着ていた目に見えない鎧を剥ぎ取られたような、あるいは、満ち溢れていた活力が急速にしぼんでいくような感覚。
「な、なにかしらこれ。お部屋の空調が悪いの?」
「わ、わかりません。私も、急に魔力の循環が悪くなったような気が……」
マリアが青ざめた顔で杖を握りしめる。
体内で常に湧き上がっていた無限の魔力が、今はポタポタと雫が落ちる程度にしか感じられない。
ガシャン!
突然、ライオネルが持っていたワイングラスが手から滑り落ち、床で砕け散った。
「なっ……!?」
ライオネルは自分の手を見つめた。
握力が、弱くなっている?
いや、違う。
今までが無意識のうちに補正されていたのか?
「おい、これ……どういうことだ?」
ライオネルの背筋に、冷たいものが走る。
だが、彼らはまだ気づいていなかった。
この違和感が、たった一人の「役立たず」がいなくなったことによる結果だということに。
「ま、まあいい。今日は疲れているんだ。昨日のドラゴン戦の疲れが、今になって出たんだろう」
「そ、そうね。そうに決まってるわ」
「ですね。早く寝て、明日に備えましょう」
彼らは努めて明るく振る舞い、それぞれの寝室へと引き上げていった。
明日、彼らは知ることになるだろう。
自分たちが歩いていた場所が、堅固な大地などではなく、アレンという名の『柱』によって支えられた、薄氷の上であったことを。
そして、その氷が既に砕け散ってしまったことを。
そんなこととはつゆ知らず、僕は街道の途中で野宿の準備を始めていた。
結界魔法を展開するために指を振る。
「『聖域(サンクチュアリ)』」
僕が何気なく唱えたその魔法は、本来なら国一つを覆えるほどの超高等結界魔法だったが、僕は「虫除けにはこれくらい必要だよな」と、焚き火の周り半径3メートルだけに圧縮して展開した。
結果、その空間は物理法則すら遮断する絶対不可侵領域と化したが、やっぱり僕は気づかない。
「うん、暖かい。今日はいい夢が見られそうだ」
草の上に寝転がり、満天の星空を見上げる。
僕の新しい人生が、今ここから始まろうとしていた。
続く
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