第13話 話
アーク達の夕食後、食器を下げて食堂まで運んで行く途中――
「シェリル様が、あなたにお話があるそうです。ですので、後でシェリル様の部屋に来るように」
――と、ペネロペ家からやってきたメイドに声を掛けられた。
私は立ち止まり、首を捻る。
疑問があったからだ。
何故シェリルが私と話したがっているのか?
である。
ドラゴンである事が見抜かれた。
という線は考えなくてもいいだろう。
見抜けるのは、人間の中でも飛びぬけて優秀な者ぐらいだからだ。
アークと同い年の未熟な子供で、しかも歩くだけで躓く様な間抜けな少女が、それに該当するとは到底思えない。。
となると……兵士達関連か。
ペンドラゴン家の兵士達と、シェリルの護衛としてやってきた兵士達の雰囲気は悪い。
それこそ、今にも喧嘩を始めそうなほどに。
そしてその原因は、どうやら私にある様だった。
「お話ですか……兵士達の件でしょうか?」
「兵士達の件?」
私の問いに、声をかけてきたメイドがけげんな表情になる。
彼女の反応からするに、どうやら違うように感じるな。
まあ、単に事情を知らないだけの可能性もあるが……
「分かりました。仕事が片付いてからお伺いします」
私はペンドラゴン男爵家のメイドだ。
ペネロペ子爵家の令嬢であるシェリルは元より、そのメイドに命令されるいわれなどない。
なので、呼び出しを無視する事も出来た。
だが、それは愚行だ。
態々私を指名ししたという事は、それなりの理由があるはず。
それを無視するという事は、貴重な情報を見逃す事にもなりかねない。
人間の事を良く知るためにも、私は出来るだけ多くの者に、積極的に関わって行かなければならないからな。
なので、これはある意味チャンスだ。
人への理解を深めるための、絶好の。
―—仕事が終わり、シェリルの使用している寝室を訪ねた。
「おお、貴方は」
彼女が寝泊まりしているのは、屋敷の中央部にあり、先代夫妻が寝室に使っていた部屋だ。
なので、この屋敷で一番大きな部屋となっている。
部屋の前には、警備が二人。
一人は到着時に私に声をかけてきた騎士——レンガだ。
彼は私に気づくと、嬉しそうに声をかけて来た。
「シェリル様に呼ばれてやってきました」
「む……そうですか。てっきり私に会いに来てくれたのかとばかり」
レンガが落胆したような顔になる。
何故私が、特に知人でもないこの男を尋ねて来たと思ったのだろうか?
謎な思考回路だ。
「少々お待ちください。お嬢様、ドラメイドさんが尋ねて来られました」
レンガが、一声かけてから扉をノックする。
すると扉が開き、中から私に声を掛けたメイドが顔を出した。
「中へどうぞ。レンガ様は引き続き夜警の方を宜しくお願いします」
「ああ、分かっている」
「失礼します」
貴人の部屋に入る際は挨拶が必要だ。
其の辺りはここでの生活で学んで知っていたので、私は挨拶してから中へと入った。
「よく来たわ」
室内は、派手なピンク色をしていた。
壁もベッドも、全て。
元々は、白と黒の地味な感じの寝室だったそうだ。
ただ頻繁にシェリルが屋敷にやってくるようになってからは、彼女の専用の寝室として魔改造されてしまったそうな。
ベリス曰く。
今は亡き両親の寝室を少女趣味の部屋に改造されて、残されたアークが可哀そうだ。
との事。
何故それがアークの可哀そうに繋がるのかは正直分からないが、シェリルに、アークに対する配慮が足りないというのだけは、流石に私にも分かる。
つまり、傍若無人という訳だ。
子爵家から援助を受けている弱みがあるので、アークもその辺りに対して強くは出れないんだろうな。
「私にお話があるとか?いったいどんなお話でしょうか?」
あまりいい話でないというのは分かる。
なにせ、シェリルは鬼の様な形相で私の事を睨んでいるからな。
もしこれがドラゴン同士なら、即喧嘩になってもおかしくないぐらいに睨みつけである。
そんな相手の口から、楽し気な話が出て来る訳もない。
「簡単な事よ。あなた……男爵家で働くのを辞めなさい」
「……おっしゃっている言葉の意味が、良く分からないのですが?」
本気で何を言っているのかわからず、私は首を傾げた。
男爵家で働く事を辞める。
そんな事を私に求めたとして、彼女に何の得があるというのか?
彼女の意図がまるで分らない。
「鈍いわね。貴方がアークの側に居るのが目障りなのよ。だから辞めなさい。これは私、シェリル・ペネロペの命令よ」
私がアークの側に居ると目障り?
うん、全く意味が分からん。
「安心なさい。私も鬼じゃないから、貴方の次の働き先はちゃーんと見つけて上げるわ。だから辞めなさい。いいわね」
ふむ……
シェリルが何を考えて行動しているのか。
全くわからない分からない。
が、とにかく――
「お断りします」
―—ハッキリと断っておく。
私は、ペンドラゴン家への恩返しのためにここにいるのだ。
人間の小娘の、よくわからない事情のためにそれを放棄するなどありえない事である。
そもそも……恩返しを差し引いたとしても、私がシェリルに命令や指図されるいわれなどないしな。
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