第11話 三倍

大掃除の三日後。

ペンドラゴン邸に、ペネロペ子爵令嬢シェリルがやってきた。


屋敷の前で、アークを始めとする家臣一同で私達は彼女を出迎える。


「相変わらず大所帯だねぇ」


屋敷の門をくぐって入って来たのは大型の馬車三台。

それに、騎乗した兵士が五十人だ。


三十程しかいない男爵家の兵士の数より、彼女の護衛の方が多い大所帯である。

この領地は魔将に襲われるイレギュラーこそあった物の、魔物の数はそこまで多くないので、危険は少ない。

なのになぜこれだけの護衛を付けているのか、正直私には理解不能だ。


「お嬢様、お手をどうぞ」


白い馬車から、女性が二人降りてきた。

ついで、その女性達の手を借りて金髪で赤いドレスを身に着けた少女が馬車から出て来る。


彼女がシェリル・ペネロペだろう。

サイズはアークを一とするなら、彼女は二……いや、三はあるか。

つまり、三倍だ。


因みに、身長は同じぐらいである。


唯々、厚みが凄い。

と言うか丸い。


「ペンドラゴン男爵領へようこそ、シェリル」


「「「「「ようこそおいでくださいました」」」」」


アークが前に出てシェリルに声をかけ。

それに合わせて、背後に控えていた全員が挨拶して頭を下げる。

これは事前に練習していた行動だ。


「アーク!」


シェリルが満面の笑顔で、アークに向かって駆けだす。

が、少し手前で足を躓き盛大にこけそうになった。


それを――


「きゃっ!?」


「危ないよ」


―—アークが前に出て、危なげなくその体を受け止め支えた。


サイズ的には一緒に転んでもおかしくない程の差だが、普段からアークは体を鍛えているからな。

大きな魔物なら兎も角、シェリルぐらいなら問題ない。


「ああ、アーク……あなたはやっぱり私の王子様よ」


アークは男爵であって、王族ではない。

一体何を言ってるんだ彼女は?


発現の意図が汲み取れない。

まあ子供だから、あまり気にする必要はないか。

子供というのは訳の分からん事で喜んだり、意味不明な奇声を上げる物だからな。


ドラゴンはそうだ。

きっと人間も、その辺りは同じだろう。


「大げさだよ、シェリル」


「そんな事ないわ。貴方こそ私の太陽よ」


太陽?

まあこれも流しておこう。

どうみてアークは太陽じゃないしな。


「ははは。ありがとう。さ、立ち話もあれだし中に入ってくれ。エスコートするよ」


「はい」


アークがシェリルの手を引く。

まあさっき、丸い体のせいで転びそうになったばかりだからな。

安全を考えての行動だろう。

人間の言葉で言うなら、転ばぬ先の杖という物だ。


「では、後の事は頼みましたよ」


執事のジャンと、シェリルの侍女達がアーク達の後に続く。

私達はこの場に残り、贈り物——シェリルの乗っていなかった馬車二台に乗っている――の受け取りや、護衛の兵士達の案内をするのが仕事だ。


シェリルの歓迎の対応を、私達がする必要はないからな……


二日前、ペネロペ子爵領から人員メイドが数人、先んじて送られてきている。

ペンドラゴン男爵家ではシェリルの十分な歓迎の準備や対応が出来ないので、そこを補うための人員だ。

なので、私達がシェリルの相手をする必要はない。


他所に行く自分の娘の歓迎を、自分の所で用意する。

ドラゴンの私には良く分からない行動だ。

人間の世界に溶け込むためにも、もっと勉強せんとな。

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