異世界終末スローライフ ~救世主として召喚されたが、一足遅く異世界は滅んでおりました~

夜狩仁志

第1章 異世界は崩壊してました

第1話 終末異世界へようこそ

 あれ?


 ここは? どこだ?


 部屋の明かりが急に消えて、一瞬停電でも起きたのかと思ったのだが、目が暗闇に慣れてきたら、どうやら暗いトンネル? のような場所に座り込んでいた俺。


 なんでこんなところに?


 たしか俺は……高校から帰ってきて、そのまま部屋で寝転びながらマンガを読んでいたはずだけど……?


 周囲を見渡す目が、闇にだんだんと慣れてくる。

背後には赤い灯りが目に差し込んでくる。


どうやら後ろの壁にはランプがかけられているようだ。

 しかも電気ではなく、油で火を灯すような前世紀の骨董品。その周囲のみ、ユラユラと揺れる炎によって、赤く照らされている。

 視線を下げ足元をよく見ると、薄っすらと黄緑色に発光する線? いや、円というか魔方陣のような?ものが描かれている。


 これって、まるでファンタジーの世界のような?

 もしかして俺、異世界に来ちゃったとかね、まさかね。


 音もなく火が揺れるランプ。

 そのさらに奥に目を向けると、ランプに照らされ赤く染まった……人?


 顔立ちの整った美しい同年代ほどの女性の姿が、漆黒の中から浮かび上がってくる。


 人がいる?

 しかも、驚くほど綺麗な女性?

 白く透明な美しい肌に、腰まで延びた金色の長い髪。

 日本人離れした彼女は、まるで西欧の絵画に書かれたような美しい女性。

 宝石のように輝く緑色の瞳は、俺のことを一点に見つめていた。


「あ、おの……ここはどこ!? 君は誰?」


緊張と驚きのため、裏返ってしまった声で、謎の美少女に尋ねる。


「ようこそ、救世主様。お待ちしておりました……」


 弦楽器が奏でる音色のような透き通る声で、『救世主』と、そんな聞きなれない言葉を俺にかけてくる。


「き、救世主? 俺が?」

「はい、救世主様。私は、エリスリッドと申します。森のエルフ族の末裔でございます。エリスとお呼びください」


 そう告げると金髪の美人エルフさんは膝を付きながら頭を下げる。

 エリスリッドと名乗った女性?は、自らをエルフであると口にした。


 エルフがいるという事は、やっぱり俺は異世界に!


 確かにその容姿と佇まいからは、どことなく地球人ばなれした雰囲気を醸し出していた。まるで本当に神話の世界から抜け出してきたような、女神のような神秘的な美しさと気品さ、そしてどことなく近寄りがたい冷たさのようなものも、感じさせられた。


「うわっ! もしかしてエルフの女の子! え、マジ? 本物!? スゲー美人だし、金髪!碧眼!耳が長い!」

「……」


「そうか! これが噂の異世界転移というのか! ここから俺の無双が始まるんだな!」

「…………」


「よっしゃー! ハーレムだー! 面倒な試験勉強や就活とも、おさらばだー!!」

「………………」


「俺は一世かずやだ。エリスだっけ? よろしく!」


 そういって右手を差し出し握手を求めるも、エリスは何の反応を見せてくれない。


 無表情のまま、俺のことをジーッと見つめているばかりだ。


 なんか……怖いんですけど?

 美しすぎて怖いというのもあるけど。


「え~っと、それで、俺は何をすればいいの? 救世主ってことは、この世界を救えばいいの? 魔法とか使えんの?」


 辺りを見渡すも、ここは王宮でもなければ、屋敷の中でもない。

ジメジメ薄暗い洞窟の中?

 しかも王とか執事とか、魔法使いのような者も見当たらない。目の前のエリス1人しかいない。


 なんか、ギャラリーがいなくて……

 思ってた登場のしかたと違って地味で。救世主召喚パーティーや祝賀会みたいなのは、ないの?


「大変申し上げにくいのですが……」

「おう、なに?」


 キョロキョロと周囲を見渡す俺に対し、エリスは整った顔立ちを崩すことなく、無表情のまま口を動かす。


「……遅すぎました」

「……え?」


「召喚されるのに、あまりにも時間がかかり過ぎました」

「え? どういうこと? 時間がかかったって、俺さっきまで部屋でマンガ読んでて、気が付いたら一瞬でここに来てたんだけど?」


「禁断魔法の異世界召喚魔法を使用して救世主様の召喚を呼びかけてから、ここの世界で約15年の月日が流れました」

「はあ!? 15年!?」


 じゅうご! えっ? そんなに!?


「そしてその間に、残念ながら人類は滅亡いたしました……」

「……そう、なの?」


 嘘だろおい?


 そして静まり返る洞窟内。

 ランプの明かりが揺れるたびに、物言わぬ二つの人影が虚しく翻る。


「……おそいから」

「え?」


「救世主様が……カズヤ様がやって来るのが遅いからです!」

「お、俺のせいじゃねーよ! 知るかよそんなの!」


「大遅刻です!」

「勝手に呼んどいて、遅いとか知らねーし!」


 なんてこと言うんだ、この子は!

 可愛い顔して!

 異世界の事情とか、救世主とか知らねーし!

 勝手に呼んどいて、滅亡したの俺のせいみたいになってるし!


「責任を取ってもらいます」

「なんの!?」


「救世主として、今からこの世界の復興のために尽力してください」

「そりゃあ、まあ、俺に出来ることがあれば……」


 しかし、はるばる異世界までやって来て、世界の復興って、地味だなぁ~ 


「なあ? こう、魔法で敵をバーっと倒したりとか、剣でバッサバッサ切り倒したりはないの?」

「敵? とっくに滅びましたよ。人類は必死で抵抗し、なんとか押し寄せる魔王軍やモンスターを倒し、共倒れになりました」


「じ、じゃあさ、あのマンガとかで見る、大勢の可愛い女の子とかに囲まれて、救世主さま~ぁ、とか、ちやほやされたりとか?」

「女の子? 今この世界には私くらいしか、もう、存在しないのでは?」


「英雄と称えてくれる王様や住民は?」

「いません」


「美味い食べ物とか、金銀財宝、フカフカのベッド!」

「ありませんよ、そんなもの。さあ、先ずは荒れ果てた土地の開墾からです」


「……俺、帰るわ」

「帰れませんよ」


「なんでだよ!」

「召喚魔法を使える者は、先の大戦で全て死に絶えました」


 ま、マジかよ……


「じゃあ、どうすれば帰れるんだよ!」

「お帰りになりたいのであれば、召喚魔法を使える生き残りを見つけ出すか、ご自分で習得されるか……」


「お前は! エリスは使えないの!?」

「使えません。知りません。覚える気はありません」


「うおぉぉぉ……なんて所に呼び出してくれるんだよぉ……」

「さあ、救世主としてのお勤めを行なってください。やることは沢山残っていますから」


 思ってた異世界転移とは全然違うし!

 しかも女の子と仲良くなりたかったのに、目の前にいるのはこの美人だけど冷たく無表情のエルフだけって。


 もう帰りてー! 現実世界に!!

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