第1章「女性声優さんと付き合いたい!」

女性声優ーーー!

 女性声優が告白されていた。

 それは俺こと杉本謙介すぎもと けんすけの人生において、最悪の出来事だった。

 俺は、屋上へと続く扉の前でその光景を見ていた。

 少しだけ開けられた扉。その隙間から見えるのは、向かい合って立ち並ぶ2人の男女。

 1人は短髪の男子生徒で、もう1人は長髪の女子生徒であった。

 その短髪の男子生徒が、一歩足を踏み出した。

「あ、あの! 宮本さん! いや、宮本夜中みやもと よなかさん!」

 宮本、と呼ばれた女子生徒の肩が、わずかに揺れた。

「僕は、あなたのことが好きです! その顔も、その声も、その喋り方も立ち姿も! 全部大好きです! だから!」

 その男子生徒は言葉をくぎり、言った。

「だから僕と、付き合ってください!」

 その瞬間、屋上に風が吹いた。

 それは輝かしい青春の一ページであり、彼や彼女にとって後世忘れることのできない出来事として記憶されるであろう。

 だというのに。だというのに俺は、その光景を歯軋りをしながら見つめていた。

 なめとんのか。

 そんなこと、許されるはずがない。なぜならいま、あの告白を受けている女子生徒、彼女の正体は……。

 その瞬間、身体が勝手に動いていた。

「うおおおおおおおおおお!!!」

 俺は屋上に続く扉を蹴っ飛ばすと、そのまま屋上で向かい合っているその2人に向かって駆け出した。

 そしてそのまま2人の間を引き裂くようにしてその間を走り抜けると、屋上の手すりに手をついた。

「女性声優ーーーーーーーーー!」

 俺の声が校舎にこだました。尾を引く残響と、耳が痛くなるような静寂。それが功を奏したのかは、わからない。ただ、その女子生徒はしばらくの沈黙ののち、言った。

「ごめんなさい。いまはそういうの考えられなくて」

 その言葉には、俺は小さくガッツポーズを繰り出した。が、その男子生徒はまだ諦めきれないらしい。

「そっ、そんな。せめて、せめて理由を教えてよ!」

「理由? それは……」

「女性声優ーーーーーー!」

 そうして、俺の意味のない絶叫の後ろで、宮本、と呼ばれた女子生徒とその男子生徒の告白は終わりを告げた。

 その後2人は解散し、そのまま屋上を後にしていく。

 俺はそれを見届けてから、ポツリと呟くようにして言った。

「女性声優、か」

 そう、なぜ俺がここまで本気になったのか。本気になってあの告白を邪魔したのか。それは先ほど告白されていた女子生徒、宮本夜中は、この世で完全無欠の女性声優だからである。

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