レイ・サーガ

阿部まさなり

0番地の生活

0番地のレイ

 宇宙の片隅にひっそりと浮かぶ惑星。その名をゴクモンという。銀河連合に属する星の一つだ。その星は星自体がスラム街のような極貧困惑星である。元々は罪人の流刑地に使われていた環境の悪い星で、土地の半分は砂漠と氷で出来ている。罪人達の中には魔人もいる。魔人は人間より寿命が長い為、魔人達で都市を築いてきた。それでも極貧困の中でも更に貧富の差が生まれた。そんなゴクモンだが、一応秩序は保たれており、警察や政府も存在する。しかし罪人達が集結したテロ組織がのさばっており、治安が良いとはとても言えなかった。

 物語はそんなゴクモンの、数あるスラム街の一つ、0番地から始まる。

 スラム街の0番地には食料や金が無く飢えた人間や魔人が住んでいる。どこの街も似たようなものだが、特に0番地は極悪人が住んでいて治安が悪いと有名の街だ。その0番地に住む一人の魔人の幼女がいた。

 彼女には最初、名前が無かった。赤子の頃に捨てられたのだ。いつしか周囲は彼女を0番地のレイと呼ぶようになり、彼女も自身の名前だと自認している。彼女はこのスラム街でこそ泥のように店からパンを盗んだり、時には弱った人を殺して服を奪って売ったりして金を手に入れ食料と交換するなどしながら生きてきた。今日は生きれても明日は分からない。明日も分からぬ極限な環境に、レイは生きている。

 そんな彼女の出自から説明しよう。レイ自身も知らない出自だ。まず彼女の母親は0番地に住む魔人の娼婦だ。母はとても豊満な胸を持ち、顔が整った女性で、身なりは汚いが男どもからは人気があった。そのため男達と体を交わり、それで金を得ていた。なのでこの地では比較的裕福な暮らしが出来ていたのだ。そんな彼女はある日、別種族の魔人と交わった。そして赤子が生まれた。それが後のレイだ。しかしレイの父親は我が子を認知しなかった。子育てなんてする気が無い。自分のことで精一杯なのに他人の世話なんてしていられないと言ったのだ。母も同じ考えだった。男とヤル時は必ず避妊をし、子が出来ないように努めていた。しかしそれは完全では無い。そもそも避妊具も質の悪いガラクタのようなものばかりだった。これまで子供が出来なかったのが運が良かっただけと言えるくらいに。母はレイが邪魔で仕方が無かった。彼女は腹を痛めてレイを生んだが、レイへの愛情なんて無かった。いや、多少はあったのかもしれないが、それよりも今日を生きるという考えが強かった。子供を育てる気などわかなかったのだ。

 そこで彼女はレイを街の離れた廃墟の真ん中に捨てた。流石に殺す事は忍びなく、ただ置いた。身に付けるものは無く、裸の状態でだ。幸い、魔人という種族はしぶといもので赤子であっても食料があれば一人で生き延びることが出来る。それを知っていたから尚更両親はレイを捨てても良い、育てないという選択肢が選べたと言える。とにかくそういうわけでレイは捨てられた。その後、両親の二人は疎遠になり、我が子から逃げるように0番地から離れた。

 そして捨てられた赤子のレイは当然親を知らず、右も左も分からない状態だった。しかし腹は減るので泣く事だけは達者だった。しかし泣いても乳は来ない。誰も来ないのだ。そのため彼女は地面の泥を啜った。舌で泥を舐めて空腹をまぎらわしたのだ。やがて自ら這って移動し、ゴミを漁るようになった。泥とゴミが彼女にとっての唯一の食事だった。たまに降る雨水と泥に含まれた水が唯一の水分だった。そうやってレイは生き延びた。その内に、レイはいつしか歩けるようになり、喋れるようになった。人間から魔人の子だと忌み嫌われ、レイは赤子の頃から暴力を振るわれた。赤子を殴ったり蹴ったりする人間もおかしいが、魔人の子という免罪符が彼らをそうさせた。しかし元々が罪人の集まりであるため、暴力的なのである。そのため、レイが最初に覚えた言葉は「お腹すいた」と「痛い」と「死ね」である。基本的にこの三つの単語を組み合わせて言葉を発していた。

 そしてレイは三歳で成長が止まった。先天的な病気で不変幼というもので、幼児の年頃で成長が止まるという、魔人特有の遺伝子異常の病気だった。三歳になった頃のレイは身長が百センチメートルに満たない。これがレイの身長の最大であった。


「お腹すいた。お腹すいた。お腹すいた……」


 成長が止まって早一年ほど。相変わらず単語を発するだけの言葉遣いでレイはゴミを漁っている。そんなレイの容姿は魔人特有のものである。頭からは大きな黒い二本の角が生えている。そしてネズミのような細長い尻尾も生えている。青白い肌色で、腰まで届くゴミまみれの銀髪を背に垂らしている。銀の瞳は半開きで眠たそうにしている。顔は丸く小さくて頬はぷくぷく。体は痩せていて腕も足も細い。そして、赤子時代は裸だったが、今は黒のマイクロビキニパンツを履いている。レイの衣服はこのパンツのみである。これは実は衣服ではなく、皮膚が変化した体の一部だ。陰部を守る為に発達した組織で触り心地は布のようだ。因みに幼児だから当然だが、露出している胸は平らで膨らみは一切無い。母親とは大違いである。見た目は中性的で男らしくもなければ女らしくもない。それも幼児故である。しかし骨格等注視して見てみると全体的に同じ年頃の男の子よりも丸みを帯びていて細く小さい事が分かる。レイが女の子だと教えてくれる特徴だ。

 そしてレイの全身には無数の傷跡が刻まれている。これは裂傷跡だ。心無い人間の子供達がナイフや石で、小さなレイを斬りつけて遊んでいた為に出来た傷跡だ。レイに抵抗など出来るはずも無い。特に顔の額から頬にかけての逆Y字の傷、喉から胸にかけての傷、胸や腹にかけて出来た✗印の傷、陰部から両腿にかけての大きな傷が目立っている。その他にも角や左頬、右頬にも傷がある。全てこの四年間で受けた傷跡だった。痛みは感じないがたまに乾燥して痛むようでそんな時は痛い痛いと延々に呟いている。この傷跡はレイのトレードマークになっていた。レイ自身、この傷跡は他人には無い自分だけのものだと気に入っている節がある。何故傷が出来たのかあまりにも小さいので覚えていないのである。物心付いた時には出来ていた傷跡だったのだ。


「あ、ご飯だー……」


 ゴミを漁っている内に腐ったパンの皮を見つけたようだ。レイはそれを両手で掴み口に放り投げた。味は悪いが常日頃ゴミを食べていたので味など知らない。これが普通なのである。みかんの皮や腐った屑などを食べる。やがて食べ物が見つからなくなったら別の場所へ。それを一日中繰り返すのだ。

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