第8話 コメント欄、現実に降臨する

 異変は、

 音もなく始まった。


 空に、黒い枠が浮かぶ。


 文字だけが、

 勝手に流れていく。


「え?おにぎりマンどこ?」

「SM嬢王かわ普通に面白いけどさ」

「路線変更しすぎw」

「米、戻せ」


「……何これ」

 嬢王かわが、

 初めて怪訝そうな顔をした。


 文字は、

 ただの表示じゃなかった。


 触れる。

 落ちる。

 刺さる。


 「米、戻せ」

 そのコメントが、

 地面に突き刺さり、

 地割れを起こした。


「え、ちょっと待って」

 トッピングおじさんが慌てる。


「コメント、

 物理干渉してねぇか?」


 街の一角。

 コンビニ棚。

 「おにぎり 120円」

 そこに、新しい文字が被さる。


「主人公返せ」


 瞬間――

 包装が、破れた。


「……っ」

 中のおにぎりが、

 息を吸った。


「……俺……?」

 かすれた声。


 存在が、戻りかけている。


 嬢王かわは、

 文字の雨を見上げる。


「……なるほど」

 ムチを肩に担ぐ。


「外野が、

 口出し始めたのね」

 コメントが、

 次々と具現化する。


「バイオマン出せ」

「梅干し回収まだ?」

「打ち切り感すごい」


 空間が歪み、

 緑の影が現れる。


「フハハハ!!

 呼ばれた気がした!!」

 バイオマン、復活。


「お前……」

 かわが睨む。


「まだ、出番じゃない」

「コメント欄が言った!!」

 正論すぎて、

 誰も否定できない。


 空の奥。


 神・エンジョウ・サクシャが、

 震えていた。

『コメント欄は……

 想定外だ……』

『あれは、

 神でも制御できない……』


 世界の中心。


 文字の嵐の中で、

 元・おにぎりマンが

 形を取り戻す。


「……俺、

 まだ……」

 その背後。


「主人公補正、復活希望」

 文字が、

 背中に張り付く。


 力が、流れ込む。


 嬢王かわは、

 静かに笑った。


「面白いじゃない」

 初めて、

 戦う顔になる。


「じゃあ――」

 ムチを鳴らす。

「読者ごと、

 相手してあげる」


 バイオマンが吠える。

「フハハハ!!

 最高の最終盤だ!!」


 空が、

 完全に割れた。

 コメントが叫ぶ。

「この先どうなる!!?」


 ナレーションが、

 静かに答える。


 ――それは、

 作者ですら知らない。


 これは――

 物語の主導権が、

 完全に失われた回。

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