雪だるまは泣かない
kesuka_Yumeno
【雪】
あれは、確か僕が二十歳になった時だ。
色を失った空から、ふわりふわりと白が舞い降りる。
雪が降ること自体は、そう珍しくない。僕は大人になったし、酒も飲めるようになったのだ。
こんなことで、はしゃいだりはしない。
僕は二段ベッドによじ登り、冷気が入らないようカーテンをきっちり閉めた。
そうして、眠りについた。
翌朝。
僕は昨日の自分に二重線を引く。
仕方ないだろう、積もったんだ。5センチは超えている。
大学は休校になった。そうと決まればやることはひとつ。
「雪だるまを作ろう!!!」
僕は、はしゃぎ回ることにした。
ベッド下の引き出しからマフラーと、手袋を取り出す。毛糸のほうではなく、黒い防水手袋だ。
朝食もそこそこにダウンを羽織り、銀世界に飛び出した。
誰の影も見えない。
ここらの雪は全て僕のものか。もしかしたら、人生で最後の制作になるかもしれない。一番、大きいのを作ろう。
無謀にも、そう思った。
蜜柑くらいの雪玉を作る。花壇の縁や柵の上の白を絡めていく。
それは林檎くらいになり、次第に
割れないように、そっと地面に置く。本番はここからだ。それに手を添え、今度はコロコロと転がす。緩い下り坂を降りた。今度は登る。ずっしりしていて反抗的な大玉は僕の膝上……いや太ももに届こうかとしていた。
門の横にそいつを設置する。
僕は少しだけ長いため息を吐いた。
「次は頭……だな」
誰も見ていないことを確認してニヤリと笑った。
先ほどと同じ手順を坂の反対側で踏む。僕は間違えてたかもしれない。
"何も考えてなかったのか?"
雪だるまの頭が煽ってくる。そいつは体と同じくらいのサイズになっていた。バランスも悪く、持ち上がらないかもしれない。
とりあえず、体を少しばかり大きく調整した。腕が怠い。
僕の頭は回らず、雪だるまの頭もこれ以上回らないので完成してほしそうに見えた。
そいつを抱きしめて両手をしかと添える。
腰を落として力を込めて持ち上げようとした。
びくともしない。僕は無力だ。
「助けて!! おかーさーん!!!」
そう、叫んだ。
もこもこの靴下と服を着たお母さんが家から出てきた。
「アンタ、何しとん?」
どう見ても雪だるま作ってます。それは母もわかっていたようだが、言わずにはいられなかったらしい。
僕は胸の前に手を合わせて懇願した。
「持ち上げるの……手伝って!」
特大の頭にふたり、視線を落とす。
しゃーなしやぞ。そんな声が聞こえてきそうだったが、母は雪の塊に意を決して手をかける。僕も反対側を持った。
「「せーの!!」」
ようやく頭と体が繋がった。
「ほどほどに、しときや」と言い残して母は家の中に引っ込んだ。
僕はそれを見届けた後、玄関の隅にある青いバケツを雪だるまに被せた。
庭に落ちた枝を刺して腕にする。まだ顔がないのに嬉しそうに手を上げたようだった。
せっかく生まれたんだ。可愛くしてやろう。僕は腕を組んで考えた。
……絵の具はやめた方がいいな。流れて染みてホラー達磨になる未来が見える。
さっと台所に戻り蜜柑をふたつ、小さな人参を拝借した。お母さんがチラッと僕を見たが何も言わなかったので、そのまま再び外に出た。
「お待たせ」
白い息を吐きながら言う。
蜜柑の目と人参の鼻をつけた。
ボタン代わりに葉っぱもつける。出来上がったこの子は大層かわいかった。
パシャ
僕はスマホに映った写真を壁紙にした。
視界の端で、小さな子どもたちも遊びに出て来たのが見えた。
さて、大人の遊びは終わりだ。
温かい珈琲でも飲もうかな。僕は家に戻った。
雪は止んだが、数日は溶けそうになさそうだった。
続く
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