第8話 8. 剣術
陽翔は、先程のクリスの話を信じたくなかった。
目を背けようとしても心地よかった陽の光が
じりじりと陽翔の心に良からぬ想像を
浮かび上がらせた。
陽翔の気分は晴れる事無く練兵場に到着した。
周囲に誰もいないか見渡した。
念には念を入れ、気配察知の技能を展開して、
確実に二人だけであることを確認した。
気分が晴れないままにもう一つのことを
陽翔は確認することにした。
「クリス、頼む。
僕の剣術の型をトレースしてみて、
その感想を教えて欲しい」
「まあそんなことだと思ってたけどね。
どんだけ自分の剣術が好きなのよ」
嫌味は言うが、陽翔の提案を快く受け入れ、
クリスは陽翔の身体の運びをトレースした。
彼女の表情が次第に驚きへと変わっていった。
陽翔が何度も繰り返すうちにクリスの動作から
ぎこちなさが消えていった。
そして、その表情は驚きから真剣そのものになっていた。
陽翔が動作を止めると、すぐさまにクリスが言った。
「これって、一体」
「クリス、感想を聴かせて欲しい」
「もしかして一子相伝のブラッド流の一派とか。
広く知られているブラッド流から不必要な動作を
削ぎ落した感じ。
うん、こっちの方が動きの流れが自然よね」
陽翔の表情は、暗かった。
「ちょっ、もしかして世に知られてはならない伝説の暗殺剣で、
知ったものは死あるのみとか」
陽翔の表情は暗く、何も答えなかった。
クリスは気圧されて、一歩二歩と後ずさりした。
「ちょっっ、クラスの皆も見てるでしょ。
まさかの一人一人呼び出して、殺す気」
意図して表情を暗くした訳ではなかったが、
陽翔の表情がクリスを脅かしていることに気付いた。
「ごめんごめ、ってえっ」
陽翔は、突然、後方から頭をかるく小突かれた。
そこにはチェザリーノが憤怒の形相で立っていた。
「貴様、エルフの王族に何をするつもりだ!」
「いやあの、これには訳が」
「ふん、貴様らニンゲンは上手い言い訳しかできないのか。
目の前の少女を見て尚、同じことが言えるのか」
取り付く島もないとはこのことを言うのだろう。
自分の言葉は全て穿って取られることは明白だった。
クリスから話して貰うしか誤解を解く手立てはなかった。
陽翔はクリスの方へ目を向けた。
「チェザ先生、フィンに剣術指導を受けていました。
下心はあったと思いますが、邪な気持ちは無かったと思います」
余計な一言を付け加えて、陽翔を庇うクリスだった。
「そうか下心はあるのか、フィン。
健全でよろしいとでもいう事思ったか!
いたいけない少女をこのような場所に誘い込んで。
そうかそうか、貴様の珍奇な剣術で無駄に汗をかかせて、
着替えの最中を襲う算段だったのだ」
その言葉は陽翔の心の琴線に触れた。
陽翔の怒りは、一瞬で沸点まで到達した。
陽翔は、手に持つ木剣でチェザリーノの肩口に
斬りつけた。
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