不器用な俺、唯一使える魔法のおかげで逆に悩む

茶電子素

第1話 俺、縮むとイケメン

俺の名前は 篠崎レン。

筋肉と誠実さだけが取り柄の、どこにでもいる冒険者……のはずだった。


だが、俺にはひとつだけ特殊な才能がある。

認識阻害魔法ディストーション

視覚情報だけを歪める、意外と珍しい魔法だ。


問題は――

俺が唯一修得できた魔法がこれだけという事実である。


攻撃魔法? 回復魔法? 補助魔法?

全部ダメ。

筋肉だけは裏切らないのに、魔法だけは俺を裏切り続けた。


そんな俺が、ある日ふと気づいた。


認識阻害を最大まで強めると、俺の見た目が“横方向にだけ縮む”らしい。


結果、どうなるか。


――ヒョロガリのイケメンが爆誕する。


鏡を見たときは本気で固まった。

「誰だこいつ」と声が出た。

いや、俺なんだけどさ。


筋肉はそのまま。

質量もそのまま。

でも見た目だけが“細身の美形”になる。


ああ、ほんとに世界は不思議で満ちている――。


そんなわけで今日も俺は、ヒョロガリ姿でギルドに向かっていた。


ギルドの扉を開けた瞬間、視線が一斉にこちらを向く。


「おい、あの新人っぽい奴、妙に雰囲気あるな」


「細いけど、なんか強そうじゃない?」


「いや、あれは魔法系の顔だろ。絶対に天才肌だ」


俺はただ歩いているだけなのに、勝手に評価が上がっていく。

ありがたいけど、全部誤解だ。


カウンターに向かうと、受付嬢のレイが微笑んだ。


「篠崎さん、今日も依頼ですか?なんだか最近、雰囲気が変わりましたね」


俺は心の中で土下座した。

レイは優しい。

優しいが、俺の本来の姿を見たら絶対に驚く。


「ええ、まあ……ちょっと魔法の調子が良くて」


「魔法が得意なんですね。素敵です」


胸が痛い。

俺の魔法は視覚を歪めるだけ。

攻撃力ゼロ。

回復力ゼロ。

便利さもゼロ。


ただ、イケメン化するだけ。


「今日はこの討伐依頼が人気ですよ。ゴブリンの巣の調査です」


「じゃあ、それで」


レイが微笑む。

俺はその笑顔に弱い。

でも、俺の本当の姿を見たらどう思うんだろう。


そんなことを考えながらギルドを出た。


ゴブリンの巣に向かう途中、森の入口で一人の男が立っていた。


黒鋼のレオン。

この街で最強と名高いAランク冒険者だ。


「お前が……噂の新人か?」


レオンの視線が俺を貫く。

認識阻害は視覚だけを誤魔化す。

気配や威圧感は隠せない。


つまり、猛者にはバレる。


「……お前、妙に威圧感があるな。だが細身で見た目は強そうに見えん。どういう仕組みだ?」


「ええと、まあ……体質みたいなものです」


レオンは腕を組んだ。


 「細身で威圧感のあるやつは、大抵が技巧派か魔法特化だ。どっちだ?」


俺は答えに詰まった。

どっちでもない。

ただの筋肉だ。


「まあいい。俺もゴブリンの巣に向かう。ついでに同行してやる」


ありがたいけど怖い。

レオンは強い。

強すぎる。


俺の正体がバレたら、どう思われるんだろう。


ゴブリンの巣に到着した。

中からは複数の気配。

レオンが剣を抜く。


「俺が前に出る。お前は後ろから魔法で援護しろ」


無理だ。

俺の魔法は援護にならない。

視覚を歪めてもゴブリンは混乱しない。

むしろ俺が混乱する。


レオンが突入した瞬間、ゴブリンが四方から飛び出してきた。


「レン、援護を――」


言われる前に、俺は動いていた。


ドーン。


拳を振るった瞬間、ゴブリンが壁にめり込んだ。

レオンが振り返る。


「……お前、今のは何だ?」


「ええと……殴りました」


「殴った?その細い腕で?」


レオンの視線が俺の腕に向く。

見た目は細い。

でも実際は太い。

筋肉は裏切らない。


「いや、どう見ても魔法だろう。衝撃波か?」


「いえ、物理です」


「物理……?」


レオンの眉が跳ね上がる。

その隙に、別のゴブリンが背後から襲いかかってきた。


俺は振り向きざまに拳を叩き込む。


ドゴッ。


ゴブリンが天井に突き刺さった。


レオンが固まる。


「……お前、本当に魔法は使って無いのか?」


「見た目だけです」


「どういう意味だ?」


説明できない。

認識阻害のことを話しても信じてもらえまい。


レオンはしばらく俺を見つめたあと、ため息をついた。


「……まあいい。強いならそれでいい」


その言葉に、少しだけ救われた気がした。


依頼を終えてギルドに戻ると、レイが駆け寄ってきた。


「篠崎さん、お帰りなさい。怪我はありませんか?」


「大丈夫です」


レイは安心したように微笑む。

その笑顔が胸に刺さる。


俺はイケメン化している時だけ、こうして優しくされる。

本来の姿では、ただのゴリマッチョだ。


レイは俺の手をそっと取った。


「あなたって、本当に頼りになりますね」


心臓が跳ねた。

でも、俺は知っている。


この好意は、俺の“本当の姿”に向けられたものじゃない。


認識阻害が切れた瞬間、全部変わる。


それでも、俺は笑うしかなかった。


「ありがとうございます。これからも頑張ります」


レイは嬉しそうに頷いた。


俺はギルドを出ながら、空を見上げた。


――いつか、本当の俺を見てくれる人は現れるんだろうか。


そんなことを考えながら、今日も俺はヒョロガリ姿で街を彷徨うのだった。

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