不器用な俺、唯一使える魔法のおかげで逆に悩む
茶電子素
第1話 俺、縮むとイケメン
俺の名前は 篠崎レン。
筋肉と誠実さだけが取り柄の、どこにでもいる冒険者……のはずだった。
だが、俺にはひとつだけ特殊な才能がある。
視覚情報だけを歪める、意外と珍しい魔法だ。
問題は――
俺が唯一修得できた魔法がこれだけという事実である。
攻撃魔法? 回復魔法? 補助魔法?
全部ダメ。
筋肉だけは裏切らないのに、魔法だけは俺を裏切り続けた。
そんな俺が、ある日ふと気づいた。
認識阻害を最大まで強めると、俺の見た目が“横方向にだけ縮む”らしい。
結果、どうなるか。
――ヒョロガリのイケメンが爆誕する。
鏡を見たときは本気で固まった。
「誰だこいつ」と声が出た。
いや、俺なんだけどさ。
筋肉はそのまま。
質量もそのまま。
でも見た目だけが“細身の美形”になる。
ああ、ほんとに世界は不思議で満ちている――。
そんなわけで今日も俺は、ヒョロガリ姿でギルドに向かっていた。
◆
ギルドの扉を開けた瞬間、視線が一斉にこちらを向く。
「おい、あの新人っぽい奴、妙に雰囲気あるな」
「細いけど、なんか強そうじゃない?」
「いや、あれは魔法系の顔だろ。絶対に天才肌だ」
俺はただ歩いているだけなのに、勝手に評価が上がっていく。
ありがたいけど、全部誤解だ。
カウンターに向かうと、受付嬢のレイが微笑んだ。
「篠崎さん、今日も依頼ですか?なんだか最近、雰囲気が変わりましたね」
俺は心の中で土下座した。
レイは優しい。
優しいが、俺の本来の姿を見たら絶対に驚く。
「ええ、まあ……ちょっと魔法の調子が良くて」
「魔法が得意なんですね。素敵です」
胸が痛い。
俺の魔法は視覚を歪めるだけ。
攻撃力ゼロ。
回復力ゼロ。
便利さもゼロ。
ただ、イケメン化するだけ。
「今日はこの討伐依頼が人気ですよ。ゴブリンの巣の調査です」
「じゃあ、それで」
レイが微笑む。
俺はその笑顔に弱い。
でも、俺の本当の姿を見たらどう思うんだろう。
そんなことを考えながらギルドを出た。
◆
ゴブリンの巣に向かう途中、森の入口で一人の男が立っていた。
黒鋼のレオン。
この街で最強と名高いAランク冒険者だ。
「お前が……噂の新人か?」
レオンの視線が俺を貫く。
認識阻害は視覚だけを誤魔化す。
気配や威圧感は隠せない。
つまり、猛者にはバレる。
「……お前、妙に威圧感があるな。だが細身で見た目は強そうに見えん。どういう仕組みだ?」
「ええと、まあ……体質みたいなものです」
レオンは腕を組んだ。
「細身で威圧感のあるやつは、大抵が技巧派か魔法特化だ。どっちだ?」
俺は答えに詰まった。
どっちでもない。
ただの筋肉だ。
「まあいい。俺もゴブリンの巣に向かう。ついでに同行してやる」
ありがたいけど怖い。
レオンは強い。
強すぎる。
俺の正体がバレたら、どう思われるんだろう。
◆
ゴブリンの巣に到着した。
中からは複数の気配。
レオンが剣を抜く。
「俺が前に出る。お前は後ろから魔法で援護しろ」
無理だ。
俺の魔法は援護にならない。
視覚を歪めてもゴブリンは混乱しない。
むしろ俺が混乱する。
レオンが突入した瞬間、ゴブリンが四方から飛び出してきた。
「レン、援護を――」
言われる前に、俺は動いていた。
ドーン。
拳を振るった瞬間、ゴブリンが壁にめり込んだ。
レオンが振り返る。
「……お前、今のは何だ?」
「ええと……殴りました」
「殴った?その細い腕で?」
レオンの視線が俺の腕に向く。
見た目は細い。
でも実際は太い。
筋肉は裏切らない。
「いや、どう見ても魔法だろう。衝撃波か?」
「いえ、物理です」
「物理……?」
レオンの眉が跳ね上がる。
その隙に、別のゴブリンが背後から襲いかかってきた。
俺は振り向きざまに拳を叩き込む。
ドゴッ。
ゴブリンが天井に突き刺さった。
レオンが固まる。
「……お前、本当に魔法は使って無いのか?」
「見た目だけです」
「どういう意味だ?」
説明できない。
認識阻害のことを話しても信じてもらえまい。
レオンはしばらく俺を見つめたあと、ため息をついた。
「……まあいい。強いならそれでいい」
その言葉に、少しだけ救われた気がした。
◆
依頼を終えてギルドに戻ると、レイが駆け寄ってきた。
「篠崎さん、お帰りなさい。怪我はありませんか?」
「大丈夫です」
レイは安心したように微笑む。
その笑顔が胸に刺さる。
俺はイケメン化している時だけ、こうして優しくされる。
本来の姿では、ただのゴリマッチョだ。
レイは俺の手をそっと取った。
「あなたって、本当に頼りになりますね」
心臓が跳ねた。
でも、俺は知っている。
この好意は、俺の“本当の姿”に向けられたものじゃない。
認識阻害が切れた瞬間、全部変わる。
それでも、俺は笑うしかなかった。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
レイは嬉しそうに頷いた。
俺はギルドを出ながら、空を見上げた。
――いつか、本当の俺を見てくれる人は現れるんだろうか。
そんなことを考えながら、今日も俺はヒョロガリ姿で街を彷徨うのだった。
不器用な俺、唯一使える魔法のおかげで逆に悩む 茶電子素 @unitarte
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