望むまでもなく

@AIokita

望むまでもなく

ある人が「絶望的な話を読みたい」というので、一人の作家は「平和を勝ち取った若者が報われ、周りの人々に祝福される話」を書いて渡した。

渡された人は「いいお話だけど、私が読みたかったのは絶望的なお話です」と言った。

作家は「私は悲劇を書いたのです」とだけ語ると去っていった。

残された人は理解できないままに見送った。


数年後にその人は争いに巻き込まれ、囚人となり処刑台に送られることになった。

首に縄をかけられ、広場で公開処刑されるとき、相手の指導者が演説を行った。広場に集まった人々は彼の言葉に耳を傾け、平穏な生活がもたらされることを誓う英雄に惜しみない称賛の声と止むことのない拍手を送った。


その拍手と喝采の中で思い知らされざるを得なかった。自分の処刑は彼らにとって『正しさの証明』なのだと。処刑は悲劇などでは決してない。それが悲劇であるのは首に縄をかけられている自分だけなのだと。

そのときにこの世の残酷さと、変わることのない絶望を理解させられた。

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