第一次世界大戦の食糧事情(上位位相神学論関連資料)
菖蒲士
第一次世界大戦中のドイツ
戦時中のドイツ国内における男性の一日あたりの摂取カロリー(WWⅠのみ)
― 栄養摂取量に関する基礎設定(参考資料)―
まず参考として、ドイツの生理学者カール=フォン=フォイトは1877年、当時のドイツ労働者階級の食生活について調査を行った。
その結論によれば、体重70kgの平均的な成人男性が通常の労働に従事する場合、1日に必要な栄養摂取量は以下の通りである。
蛋白質:118g
脂質:56g
炭水化物:500g
これを、後に確立された熱量計算に基づいて換算すると、未消化分を考慮しない場合、おおよそ1日3,050kcalに相当する。
なお、重労働・肉体労働に従事する場合には、蛋白質145g、総熱量3,400~3,500kcalが必要とされた。
この基準を踏まえると、第一次世界大戦勃発年(1914年)における一般的な成人男性の摂取カロリーは、概ね3,000kcal前後であったと推定できる。
戦時における摂取カロリーの変化
では、第一次世界大戦中はどうであったか。
兵士の場合
米陸軍医学博物館(National Museum of Health and Medicine)の報告によれば、
「1914年当時の兵士は、塹壕戦という極度の肉体的要求に応えるため、
1日約4,600kcalの摂取が想定されていた」
とされている。
ただし、この数値は当時の兵士が実際に恒常的に摂取していた平均値ではない。
あくまで、塹壕戦という過酷な戦闘環境を前提とした理論上の必要量であり、現実の補給事情を反映したものではなかった。
実際の戦場では、補給の断絶、輸送ロス、保存状態の悪化などにより、兵士の摂取カロリーはこの理論値を大きく下回る場合が多かったと考えられる。
それでもなお、少なくとも大戦前半においては、ドイツ兵の栄養状態は他の主要交戦国と比較して相対的に良好であったとされる。
カブの冬(Turnip Winter)
― 食糧危機の構造的崩壊 ―
しかし、第一次世界大戦を資料的に扱う以上、避けて通れない事象がある。
それが**「カブの冬(1916–1917)」**である。
この飢餓は、単なる不作や封鎖の結果ではなく、複数の政策判断が連鎖的に失敗した末の構造的崩壊であった。
1. 豚の大量屠殺と、その直接的影響
イギリス海軍による海上封鎖により、家畜飼料(穀物)の輸入が途絶した結果、ドイツ国内では深刻な競合が発生した。
ドイツ政府は
「人間と豚がジャガイモを奪い合っている」
と判断し、穀物を人間に回すため、国内の約3分の1にあたる約500万~900万頭の豚を屠殺する命令を下した。
しかし、この決定は短期的合理性の裏で、致命的な副作用を引き起こした。
2. 連鎖的な農業崩壊
肥料の喪失
豚の消失により、農村では糞(堆肥)という主要な有機肥料が失われた。
さらに、化学肥料の原料である窒素は火薬製造に優先的に回されていたため、代替手段も存在しなかった。
この結果、畑の地力は急激に低下した。
収穫量の激減
翌1916年、地力の低下に加え、記録的な長雨と冷害が重なり、
主食であるジャガイモは前年の半分以下という壊滅的な不作に陥った。
肉の消失
屠殺された大量の豚肉も、当時の保存技術や缶詰の品質の低さから、
多くが腐敗し、結果として食糧として利用されることなく失われた。
3. 「カブの冬」への転落(1916–1917)
ジャガイモも豚肉も失われたドイツ国民の前に、
唯一残された食料が、本来は家畜の飼料であったカブ(スウェーデンカブ)であった。
都市部では、パン、肉、脂肪はいずれも慢性的に不足し、
食卓は次第に「カブ中心」の代替食へと置き換えられていく。
カロリーの崩壊
1913年:理想的摂取量 約3,000~4,000kcal
1916–17年:配給ベースで 1日あたり約1,000kcal前後
これは、生存を維持する最低水準すら下回る数値であった。
結末
この飢餓の結果、終戦までに約76万人の民間人が、栄養失調および関連疾患によって死亡したと推定されている。
※フォイトは必要以上の蛋白質の摂取を推奨していたことについては留意すること。
参考文献:
・広島修道大学学術リポジトリ『戦時食糧政策と生理学,栄養学の実験 ──第一次世界大戦にお けるドイツ食糧政策──』
・米陸軍医学博物館(National Museum of Health and Medicine)
・ウィキペディア
第一次世界大戦の食糧事情(上位位相神学論関連資料) 菖蒲士 @14840101
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